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それからは振り向かずに外へ出た。
出来るだけ遠くに、遠くに行かなくてはとそれだけ考えて走った。
走っている途中、雑木林の中で袋の中に入っていた服に着替えた。着ていた制服は何かの役に立つかもしれないと多少重くても袋の中に詰めて持って行った。それに、元の世界とあたしを繋ぐものは着ていた制服以外何もないから。持っていた学生鞄も背負っていたフルートも、あたしと一緒にこの世界には辿りつかなかったから。
幸い誰にも会わず、おそらく城下町であるだろう場所までたどり着くことが出来た。懸命に走っている最中は気が付かなかったけれどあたしが三日と少しだけ居た城は周りを雑木林が囲っていて、城下町と称したものの、言葉が表す親近さは感じられない。
「これからどうしようか」
勢いでここまで来たものの如何せん言葉が通じないし、あまり不審な行動をしていれば注目されてしまうだろう。それはまずい。
「とにかく常識だ。ここでのルールや暮らしを理解しないと」
今現在あたしがもっているこの世界の知識は「時間は元の世界と同じ」、「動物が怪物である」ということだけだ。
他の事を知るためにもまずは………注意深く観察しなければならない、この世界を。
町をぶらつくフリをして散策して分かったことがいくつかある。
まずは通貨。一番大きいものが金髪が渡してくれた金貨で次に大きいものが銀貨。銀貨十枚で金貨一枚と同等のようだ。銀貨の次が銅貨で、これも十枚で銀貨一枚の価値になる。簡単なルールで助かった。
次に生活水準。やはり現代日本よりも随分遅れているのが見て取れた。ただ中世の某国のように糞尿が垂れ流し状態ということはなく、汲み取り式のようだが公衆便所も設置されてた。銭湯のような建物もあったことから衛生面に関してはかなりしっかりしているらしくて安心。
そして移動手段。予想通りあの馬のようなものが動力となっている馬車……便宜上馬車としておこう、馬車が主な移動手段として使われている様だった。町の大通りは荷物や人を乗せた馬車が行き交い、かなり活気にあふれていた。
「馬車が交通手段なら街道があるよね」
しかもここは城下町、普通の町々を繋ぐ街道ではなく整備されたものである可能性が高い。それなら比較的安全に進むことが出来るんじゃないだろうか。
城が目と鼻の先な城下町で不審な動きをしているなら、巡回している兵士達にすぐ見つかってしまうだろう。けれど城から遠のけば警備は少し緩くなる筈だ……というよりそう願いたいという気持ちが強いけれど。
これが逆に田舎すぎるとまた怪しまれるものである。田舎とはいい意味でも悪い意味でも閉鎖的であるから。だからこそ、城下町から少し離れた田舎にしては発展しているけれどかといって都市でもない、そんな中途半端な場所の方が暮らしやすい。
「取りあえず適当に日持ちしそうな食べ物と―――それから防寒具、買えるならナイフもあると便利かな。とにかく出来るだけの準備をしよう」
そうと決まれば善は急げである。
もう一つ散策して分かった―――食べ物も元の世界と変わらない。ということに安堵しながら、あたしは旅支度を始めた。
「こんなもんでしょ!」
旅支度の為に買った道具を河原で広げつつ一人悦に浸ってみる。
少しだけ大きめのリュックサックに水筒、ベルトに引っ掻けるタイプのナイフ。それからフードつきのコート。食料はフランスパンのようなものと干し肉が沢山。調味料として砂糖と塩。
他にもマッチ、ランタン、縄……等々旅に必要になりそうなものを買い揃えてみた。中でも一番いい買い物をしたというものがコレ。
「流石に世界地図って訳じゃあないけどここら辺一帯の地図が手に入ったってのは、かなりラッキーだよね」
精確さの程は分からないけれど地図が作れる技術があるってことはやっぱり技術力は決して低いわけではないんだろう。ともかくこれのお蔭で次に目指すべき場所の計画が立てられる。
「地図によると城下町から南に港町があるっぽいな。港町といえば遠方の人々が集まる場所、もしかしたら言葉が通じない人なんてザラかもしれない……だとしたら潜り込むのに最適か」
―――目的地は南、港町!
時刻は陽が落ち始めた夕方、もしかしたらあたしが逃げたことがバレているかもしれない。本当なら今日は町のどこかで休んで朝一で出発するのが良いんだけれど、そうこうしている内に城から追手が来てしまうかもしれない。
すぐに、城下町からも離れなければ。




