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そして知ったこと。
あたしは兵士に連れられまたあの部屋……謁見の間に通された。三日前と同じく両壁に沿う様にして並び立つ甲冑、奥には王様が座っていて違うのは右側の王子の姿が無かったことだった。
「………こんにちは」
未だ目の前で殺されたスズメが頭から離れず、鏡は見れてないけれどきっと色はないんだろう。年に何回か、巣から落ちてしまった雛がそのまま死んでしまっているのは見たことがある。だけれど、あんな風に故意に命を奪われる場面は今まで見たことがない。いくらスズメとはいえ、平和に育ってきたあたしには刺激が強すぎた。
「3^509msbrとぁ」
そんなあたしの心情を知ってか知らずか左側の王子があたしに近寄り本を二冊突き付けてきた。一冊は、この部屋で前に目を通したあの絵本。そしてもう一冊は分厚い、何かの図鑑のようだった。
「また読めって事?ぶっちゃけ今読書な気分じゃないんだけれど…」
殺されてしまったスズメはどうなるのだろう。あの兵士の様子じゃ土に埋めるとかお墓作るとか、そんなことはしなさそうだ。そもそもこの世界って土葬なのか火葬なのか。
重い溜息を一つ吐き出して同じぐらい重い図鑑をペラペラと捲る。
「―――――――え?」
そこに載っていたのは。
犬、猫、鳥、猿、馬、豚、鶏、牛、山羊、獅子、鼠、兎……見覚えのある動物たち。
スズメの姿も描かれている。
「動物図鑑?なんでこんなん、あたしに見せるの」
「35い9bdkjfg」
首を傾げながら問えば王子は絵本の怪物を指さし、次に図鑑に描かれている動物たちを次々指していった。そしてそれを何回も何往復させる。
これは、つまり。
「ここに載っている……動物が、この世界での…怪物ってことなの!?」
意味が伝わったと判断したのか王子は重々しく首を縦に動かした。
つまりさっきの図書室での出来事は、怪物―スズメ―を退治したってことで。
「そんな、馬鹿な。得体の知れない怪物やら化物ならまだ、まだ頑張れるかもしれないのに」
すぐ身近にいた、小さい頃からテレビや動物園で慣れ親しんできた動物たちを殺せって?
これがサバンナで動物を狩って生計を立てている人達なら何ともないかもしれない。でもあたしは、普通の一般の、平和な国で育った女子高生で。
だってあのスズメは怪物なんかじゃなかった、人慣れしててあたしの手の中にすっぽり収まって柔らかくて弱弱しくて。これから怪物を倒してくれと正式に頼まれれば、あたしは動物を殺さなければならないのか。「猛獣」と呼ばれるものだけではなく、犬や猫も。
「そんなこと…あたしに、出来るの……」
遠い昔のこと。まだ無邪気になりたいものを大きな声で言っていた記憶が蘇る。
(今日子は大きくなったら何になりたい?)
(うんとねー、おいしゃさん!)
(医者か!ならお父さんが病気になったら今日子に治してもらうとするか)
(ちがうよぉ、あーしはね、どうぶつのおいしゃさんになるの)
(獣医さん?)
(うん、じゅーいさん!あのね、このまえね、おとなりのみゃあこさんがびょうきだったんだけどね、じゅーいさんがなおしてくれたんだって。だからあーしもじゅーいさんになっていっぱいどうぶつなおすの!)
(良いんじゃないか獣医。最近ペットブームらしいし、需要はあるだろ)
(またお父さんはそうやって夢のないことばっかり言って)
動物を救いたいと夢見ていた頃もあったのに、動物を殺めなければならないのか。
「いお35、cvm」
狼狽えるあたしを不審に思ったのか王子が何事か言って腕を掴んできた。
そしてあたしは失敗する。
「む、り。ごめんなさい、動物を殺すなんて……あたしには出来ない」
首を横に何度も振って後ずさりする。周りの兵士たちはざわつき、腕を掴む王子の顔つきは険しくなった。後々になって冷静に考えれば凄まじい愚行である。
何故だか分からないけれど、召喚された割には扱いが最低限。この時点であたしの立場はあまり良いものではなかったのに。「この世界の家畜」に対して拒否反応を示し、次の日には「怪物」を手の中に収め、それが退治されるのに大きな……マイナスの衝撃を受けた。
そしてこの態度。
どうやら私は「怪物」サイドの存在であると、認定されてしまったらしい。




