-3-
一通り読んで、読めてきた。
「つまりこの絵本のように今現在怪物が人間を襲ってきて困ってるから、主人公………異世界の人間であるあたしを呼んで助けてもらおうってこと?」
主人公が立つ噴水の下に描かれている紋様は、あたしがいつの間にか座っていた―――冷静に思い返してみれば噴水の中にダイブしたからびしょ濡れになってたのか―――噴水の床に描かれていたものと一緒で。
多分この絵本は過去にあった話を昔話風に描いてある物なんだろう。
「q0い」
深刻そうにうなずく王様。言葉は通じなくてもジェスチャー、ボディランゲージってすごい効果だって実感。
「けどなぁ。どうしてあたし?特にこれと言って武道をやってるわけでもなく、よくある異世界に来る途中にチート能力授かってるわけでもなく。多分この部屋の中で最弱よ?」
不安なあたしの心中を察してくれたのか王様はふんわりと笑ってなんとか場を和ませようとしてくれている。両脇の王子はまだ警戒してるのか訝し気な視線ガンガン飛ばしてくるし、否、王子だけじゃなくて部屋中の兵士達も。
よくよく思い返してみればなんだかおかしくないか?だって、あたしの予想が正しければ召喚されたあたしは国を救う「勇者」なわけで。それにしては扱いがぞんざいというか最低限世話してやってるぞみたいな…。ちょっと、キナ臭いな。
「y^qつpw340」
そんな思考を止めるかのようにパンパンと軽く手を叩く音。どうやら右に控えていた王子が合図したらしい。
「え、ちょっとまっ」
さっき腕掴むの止めてって意思表示したばっかりなのに金髪と茶髪の女の人が両腕を掴んで謁見の間から強制退場。そのままずるずる半ば引きずられるようにして連れてこられたのは、おそらく客間だろう。
「おqw−」
「んx−−256m、2^おbs;l@え」
「お、おやすみなさい?」
茶髪が指した壁にはあたしの世界でもよく見かけた時計。普通は数字が刻まれている場所にはやっぱり見慣れない記号が十二個。短針はこちらでいう十時を指し、長針は五十分を指していた。
あたしが時計を認識すると次に茶髪は七時の場所を指さした。どうやら針がそこを指したら迎えに来る、ということらしい。
理解した、と首を縦に振れば二人はそのまま出て行った。
「時間の感覚が同じならもう十一時、か…」
気になる点は多々あるが、色んなことがこの数時間で起こりすぎてて身体より頭が疲れた。それに体験して分かったけれど知らない言語に囲まれるって相当なストレスになる。これがまだ英語とかそれなりに聞いた事ある言語だったらまだマシだったのに。
「普通こういうのって呪文とかマジックアイテムで意思疎通できるようになるのがセオリーじゃない?」
判断材料が少ないのと疲労でうまく頭が働かない。
こうして怒涛の一日目は過ぎて行ったのだった。
次の日、きっちり短針が七時、長針が十二時を指したと同時に金髪と茶髪の二人が入ってきた。どうやら時間の感覚はどちらの世界も変わらないらしい……んだが、ノックぐらいしようぜ。
二人は盆を抱えていて、その上にはパンとスープ。どうやら朝食らしい。
「ありがたくいただきます」
掌を合わせてからもぐもぐむしゃむしゃ、二人は監視するかのようにあたしの様子をガン見。大丈夫ですよー、こう見えて好き嫌いそんなないですから。貰ったものはよっぽどのことが無い限り完食しますから。
その後一息吐く間もなく部屋から引きずりだされ―――はしなかったものの、やっぱり前後に挟まれながら移動。昨日は夜だったこともあって気付かなかったけど予想通りここってお城だったのね。廊下のいたる所に飾ってある壺やら花瓶やら絵画は、庶民のあたしでも高いんだろうなって感じるようなものばかり。
部屋を出てから大体十分ぐらいして、着いたのは獣臭い木造の小屋。
促されて中に入って、絶叫した。
「かかかか、怪物じゃんかよおお!!!」
柵の向こう側にそれらはいるけれど、怖いものは怖い。そこに居たのは見たこともない生物。
馬のように見えるけれど前足二本、後足三本の安定感はばっちりな生物。だけれど目は三つもいらないんじゃないかな!
その向かいにはこれまた鶏のように見えるけれどもどうして首が二つに裂けてるの?どうして頭同士で喧嘩してるの?有名なゲームに似たようなの居たけれど、それは鶏じゃなかったし!
小屋の奥に居るのは豚と牛のような生物。豚っぽいのは額に一本立派な角が生えてて目が血走ってるし、牛みたいなのはお乳の部分が紫で、同じ紫色の液体がそこからダラダラ垂れ流し状態。
そして、それらの生物をせっせとお世話しているのは。
「スラ、イム……?」
ぬらぬらとしたジェル状の物体が忙しそうに右往左往。一つだけじゃなくて水色、ピンク、緑、オレンジ。この世界の人達と同じ髪の色をしたスライムがうごうごと動きながら自分の仕事をこなしている。
「怪物手なずけてるじゃん!ペットみたいにさ、愛すべき隣人レベルじゃん!あたしいらないよね!?」
あたしのビビり具合に連れてきた二人はドン引き。あたしはビビらない二人にドン引き。
でも、どうしてビビらなかったのか。そしてどうしてあたしが連れてこられたのか。
それは次の日明らかになる。




