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狼が比較的あたしが歩きやすいルートを選んで案内してくれているのは分かっているけれど、それでもちょっと足の裏が痛くなってきたかなと思っていた時のことだった。
「わぁ………!!」
急に視界が開け、眩しさを感じ反射的に手で陰りを作ってしまう。その光に慣れた頃、見えたのは辺り一面に広がる湖だった。
水は澄み、魚が―――――よく元の世界で見かけたフォルムの魚と、尾びれが二つに分かれていたり一つ目だったり、多種多様の魚が気持ちよさそうに泳いでいた。
「ここの水ってそのまま飲める?」
尋ねると返事の代わりに狼は口をつけて湖の水を飲み始めた。
「どれどれあたしも」
両手で水をすくって飲む。心地よい冷たさが身体に染みわたり、それまでの疲れが取れたような気がした。
「おいしい!山の水とかおいしいって言うけど、こういう事なんだね」
これは夏場に水浴びするのに良いスポットかもしれない。……それまで、ここに居るのか、居られるのかは分からないけれど。
「さてと。それじゃあ早速当初の目的を果たしますかね」
暗い気分は首を振ることで追い出して。道中見つけた調度いい木の棒にロープを括り付け、その先端に針金を取り付ける。そして針金の先にはお手製のパンの切れ端を突き刺して。
「よっこい、しょいっ!!」
ロープの先が出来るだけ遠くに届くように木の棒を振る。
これで釣れるかどうか、正直期待はしていないけれども何事もまずは挑戦が必要なのだとこの世界に来て学んだ。というよりも思い出した。
「勝率どれぐらいだと思う?」
「………」
狼の方を見やるとこれはなんだろう……呆れた表情をしている気がする。
「お前マジでその釣竿もどきで魚釣れると思ってんのか」みたいな顔をしている気がする。
「馬鹿にしてるでしょ」
尻尾を二振り、否定。
「嘘吐きめ」
魚さん魚さん、この狼をぎゃふんと言わせたいんです。今晩美味しく調理しますからどうか釣られてくださいな。
そんな風に願いを込めながらロープの先をじっと見つめる、と、ぐいっと木の棒が引っ張られた。
「えっ」
そのままぐいぐいっと力が掛かる。
「ちょっとちょっとマジで!?ぐぬぬぬぬぬっ!!!」
リールなんてもの付いていないから木の棒を離さないようにしながら少しずつ少しずつ後退することによってロープの先をこちらへと引っ張っていく。踏ん張りながらの後退はかなりキツいし一歩間違えればこちらが湖にドボンだけれど、まさかのチャンスを逃すわけにはいかない。
「負けてたまるかぁあっ!!」
最後の仕上げとばかりに木の棒を手元に勢いよく引きつければ、ザバンッという水音と同時に大きな魚のような物体が宙を舞って、地面へと叩きつけられた。
「…つ、釣れ、た?」
狼が信じられないといった顔であたしと釣り上げたものを交互に見る。
急いで物体に駆け寄れば、それは確かにロープの先の針金を銜えていて。
「釣れたよ!何だかよく分からないチョウチンアンコウのさきっぽにあるヤツが二つ付いたよく分からない魚だけど、釣れたよ!」
口から針金を抜き取り抱えて狼に見せびらかす。自分でも期待はしていなかったもののいざ釣れたと、しかも大きいものを釣れたとなると自慢したくもなるだろう。
「フンッ」
狼はそんなあたしと魚を見て、バツが悪そうに鼻を鳴らしたのだった。




