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「きもちよかったー!!」
こちらに来てからこんなに伸び伸びゆっくりお風呂に入るのは初めてで、ついつい長湯をしてしまった。城に居る時は女の人二人に見張られながらの入浴で、心の底からリラックスしてなんて出来なかったから。
逃走中に転んだり、茂みで擦ったりした細かな傷がしみて痛かったけれど、それよりもゆっくり出来たほうの心地よさの方が断然上だった。
着ていた服もついでに手で洗濯して力の限り絞り、窓際に干しておく。
「あ」
鼻歌交じりにドアを開けると閉めた時と同じ体勢で寝ていた狼と目が合う。上機嫌なあたしの姿を確認した狼は、さっきと同じように鼻を一回フンッと鳴らして歩き始めた。
次に連れてこられたのはふかふかのベッドが置いてある寝室。狼は赤い実を勧めてきたのと同じようにベッドを鼻先でつんつんとつついていた。
「寝ろと?確かに赤い実……ご飯も食べてお風呂にも入って、疲れがまだ取れてないし眠たいけど」
ベッドに腰掛けて狼に話しかけてみる。仮にこちらの世界の動物が人語を理解できたとして、こちらの言語が通じないあたしが話しかけても通じないのは分かっているけれど、一応思いが伝わるように。
「ここの家の持ち主が帰ってきたらビックリするよ?訳わからん人が自分のベッドでグースカ寝てるってどこの白雪姫だって。それに何よりさっきからあたしに良くしてくれてるけど」
そこで言葉を切って、狼の目の前でしゃがむ。
「おーかみさん、怪我は?目は傷跡ちょっと残っちゃったみたいだけど……お腹は?もうそんなに動いて平気なの?」
あたしがどのぐらいの期間気を失っていたかは定かではないけれど、その間に狼の傷は治ったのか。お風呂に入りながらずっと気になっていたのだ。
今までの様子から少なくともこの狼があたしを食用として見ているわけではないと判断し、頭をがしっと捕まえて細部を観察してみる。
「目立つ所は目の所だけかな………。腹部の傷も見たいんだけど、お腹見せるって服従のポーズだもんなぁ。そう簡単にしてくれないよね」
物は試しに身体をググっと押してみたが流石にそれは許してくれないのかびくともしなかった。
「グルル」
「わっ、ごめんごめん!傷の確認したかっただけで服従しろとかそんなこと考えてないから!」
慌てて身体から離れて両手を上に挙げ降参のポーズをとれば、不機嫌そうに目を細めながらも大人しくなった。
「…………さっきから思ってたんだけど、言葉は通じなくても何となく意思疎通できてる?」
「……」
「そういう時だけ無視してると逆にあからさまだよ、おーかみさん」
狼は気まずそうに尻尾を二、三振ってから鼻先であたしの身体を押し始めた。どうしてもあたしを寝かせたいらしい。
「はいはい分かった分かった、ありがたく眠らせていただきます」
ベッドにごそごそと潜り込むのを見届けると、狼は反対の壁際に丸くなって寝そべった。でも寝るわけじゃなく、あたしをじっと見つめてくる。
「そんな熱視線送られたら眠れませんよー」
「…………」
「別におーかみさんのこと襲わないよ?ここまで良くしてくれた恩人…恩狼?だしさ。もしかしてこの家に運んでくれたのもおーかみさん?」
言ってみて、それはないかと思う。
いくら犬より大きいとはいえあたしを家まで背負うなんて無理だし、城下町からここまでどれぐらいの距離があるかは分からないけど瀕死の状態だった狼がそんなことできるはずないだろう。
「いいや…眠くなったし、また起きたら考えよう。……おやすみなさい、おーかみさん」
こうして謎のログハウス一日目が幕を閉じた。




