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魔王様の溜息  作者: 黒筆猫
第3章 人間返還計画
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 シャーナンに抱っこをしてもらって、謁見の間に向かっています。


 近づいていくごとに、収まったはずの緊張がぶり返してきます。ううっ、もうすぐです。


 とうとう扉の前です。と思ったら、シャーナンが立ち止まりました。


「シャーナン、どうかしたの?」


「はい、大事なことを忘れていました」


 大事なこと?いったいなんでしょう。


「人間と話をする時、絶対に目を合わせないようにしてください」


 いったいどう言う事でしょう?ああ、そっか。ライトノベルの話とかでよく読みました。あれですね、『人間などと目を合わせては、陛下の目が汚れてしまいます!』とか、そういう話ですね。


「いえ違います」


 あら、違ったみたいです。じゃあ、どうしてなんでしょう?


「ミナ様は、とても強い魅了の力を持っておいでなのです。高位の魔族ならば耐えられますが、人間では目が合った瞬間に魅了してしまうでしょう。下手をすればその場で、自分の物にしようと、場所も忘れ襲い掛かる可能性もあります」


 うわっ、今までで一番のびっくりです!


 今の私は、5歳位の見た目です。大人が幼女に襲い掛かることを想像して、ちょっと引いてしまいました。


 実は高位の魔族でもあまり長い間は、目を合わせてはいけないそうです。また、目を合わせるのは、最低でも中の上くらいの魔族までだそうです。私を城まで運んでくれた、オオカミのゲルフがギリギリ位だそうです。そう言えばあの時は、びっくりしてキョロキョロしてしまって、あまり目は合わせませんでした。見つめていたら危なかったかもしれません。これからは気をつけないといけませんね。


 じゃあ、注意して謁見の間に入ります。


 シャーナンに玉座まで運んでもらいます。座る前にチラッと人間の方を見てみました。一番前にサーナが片ひざを付いて頭を下げて待っています。その後ろに人間が、両ひざと両手を床に付けて、頭を下げています。簡単に言うと『orz』の姿勢です。


 そんなことを見ている間に、玉座に着きました。初めての時に座面が冷たかったので、今回は座布団を用意してもらいました。始めはふかふかのクッションを見せられて、『このような感じでしょうか?』と聞かれましたが、とても座りにくそうなので、もっと薄いものをと言って替えてもらいました。


 二回目なので私だって考えます。初めから普通に座るのは諦めています。右側の肘掛と背もたれの交差する辺りに背中を預けて、肘掛に寄りかかるように横座りをします。


 うん、安定しています。


 靴を履いていても新品だし、どうせ殆ど歩かないので脱がずに座ります。


 今日来た人間は、サーナの管理する羽を持った魔族の下にいた人達です。魔族の殆どは羽が無くでも空を飛べるけど、やっぱり羽のある魔族の方が飛ぶのは早いそうです。なので、一番早く集まった人間達から戻る時の希望を聞いておいて、準備をしておこうと言う事で、今日の謁見になりました。


 数えると23人います。体つきの良い男が3人、細身のインテリっぽい男が1人、まだ少年といってよさそうな男の子が5人、美形の魔族を見慣れた私的には、そこそこに美人に見える女性が12人、私くらいと10歳くらいの女の子が1人づつ。普通に考えれば女の人達は、引く手あまたの美人なんだと思います。


 私がしっかりと座って、人間達を見回したのを確認してから、シャーナンが言いました。


「陛下の御なりである」


 いつもはミナ様と呼んでもらっれるけど、やっぱり謁見の時は陛下と呼ばれます。特に他種族相手には、こういう形式と言うのは大事なんだそうです。これは仕方の無いことなので、私も納得しました。


 「魔王陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう存じ上げます」


 この挨拶は、シャーナンの御なりの言葉からの決まり文句です。これも形式ってやつですね。


「このたびは、陛下より下知をいただきました、人間を連れてまいりました」



「うん、サーナもおt・・・「陛下!」」


 シャーナンに途中で止められました。うっかりしていました。ここは、こう言わないといけないんです。

 

「大儀であった」


 えーと、この後は確か・・・


「人間達よ、我はそなた達を元の住処に戻すことにした。残りの人間が集まり、準備が出来次第帰す。帰って生活が出来るようこちらで用意する。何か希望はあるか?」


 人間達は戸惑っているようです。頭を下げたまま横の人間とチラチラとめせんを交わしている。


 それは当然ですよね。私だって、誘拐されて来たのにいきなり帰してやる、なんて言われても信じません。


 みんな何も言わないので、ちょっと助けてあげましょう


「質問があれば聞こう」


 うーん。この喋り方は難しいです。大体声、子供の声でこんな話し方をしてると、違和感がすごいんですよ。


「あっあのっ!・・・・・か・は・・・い・・・・いも・・・・で・・?」


 緊張してるのか、ちゃんと喋れてないみたい。聞き取れないや。


「聞き取れない、顔を上げて喋りなさい」


 あっ、もうちょっと横柄な感じで言った方が良かったかな?


 ここで顔を上げるのは、やっぱり勇気がいるのかな?『あのっあのっ』と何度もいいながら、中々上げなかった。


 わざときつく言って、強引に上げさせたほうがいいのかな。なんて考えながら男を見ていたので、急に顔を上げた男と、目が合いそうになって、慌てて奥の方を中心に、全体を見るようにした。結構危なかったです。


「あのっ!生活できる準備と言うのに、かねは貰えるんですかっ!?」


 ・・・・・・あっ!


 大失敗です。病院生活が長かったせいで、人間の生活にはお金が必要なことを忘れてました。うわぁーーどうしよう?


 こんな時は、えーっと・・・えーっと・・・困りました。


 どうしようもないので、私はシャーナンに小声で話しかけます。


「シャーナン」


「いかがなさいましたか?」


「人間が使うお金ってある?」


 珍しくシャーナンが困っています。眉を寄せて唸り出してしまいました。


 本当にどうしよう?


 あっ!


「私が着てた服って結構高く売れるんじゃない?」


「それはなりませんっ!」


 シャーナンがいきなり大きな声で言うので、驚いてみんな注目してしまいました。それに気づいて、取り繕いました。


 みんなが落ち着いてのを確認して、シャーナンが小声で言います。


「陛下に着て頂く為に作られた、服を人間に売るなど誰も承知しません」


 そこまで言われると、売るわけにもいきません。


「他に何か、人間に売れる物ってある?」


 シャーナンはしばらく考えていたようですが、一瞬、目が大きく開きました。何か思いついたようです。


「人間に売るのでしたら、ちょうど良いものがあります」


「それって、沢山あるの?」


「はい、魔族には不要ですが、人間などはかなり欲しがるものがございます」


 何とかなりそうです。後は幾らくらい渡せばいいのかですね。


「家の無い人間が、1日に必要なのはどれ位なの?」


 誰も答えません。


 やっぱり魔王が相手だと話しにくいのでしょうか?仕方ないですね。きっと帰してもらえるかも半信半疑なのでしょう。こちらの準備が整うまでに落ち着いてくれるでしょう。


「こちらの準備が整うまでの、住処は用意してある。一応、見張りの者を置いておくので、かね以外にも必要なものがあったら、その者に伝えておきなさい」


 念のため、誰かが喋り出さないか確認します。


「今日はこれまでにする」


 私が退室するまで、ここにいる人達は出て駄目と言う事になっているので、シャーナンに抱っこをしてもらって、出て行こうとした時でした。


「あのっ!!、こちらに残ることは出来ないのでしょうか!?」





 顔を下げたまま大きな声でそう言った女性に、みんなの視線が集まりました。

指摘をいただきましたので、誤字修正をしました。

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