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魔王様の溜息  作者: 黒筆猫
第7章 召喚の儀?
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 シーリン国の駐在官の中に、召喚について詳しい人間がいると言う事で、話を聞くことになりました。


 謁見の間では面倒なので、執務室に来てもらいます。


 執務室には私の他に、シャーナンとアヴァが待機しています。


 私も含め3人とも内心緊張しているのでしょう、いつもとは違い、終始無言でただシーリン国の人間が到着するのと待っていました。


「ミナ様、人間をお連れしました」


 ノックの音と共に、サーナの声が聞こえます。


「入って」


 自分でも、心臓が大きく脈打ったのが判りました。


「詳しい人って、アルフレッドだったのね」


 そうです入ってきたのは、あのアルフレッドだったのです。時々は食事をしたりして、それなりにいい関係だと思っている相手だと思うと、少し、ほんの少しですが安心できました。


「はい、こちらに特使の護衛として同行することが決まった時に、大学の歴史学者から即席ですが教えてもらった事があるのです」


 騎士らしく礼をした後、そう答えてくれました。


「それじゃあ、いきなりだけど、勇者の召喚について教えてちょうだい」


「そうですね、初めて勇者の召喚がなされたのが、四代目の魔王の頃だと言うのはご存知ですか?」


「それは知ってるわ」


「では、そもそも勇者の召喚方法を伝えたのが、始竜である光竜であることは?」


「それは初耳ね」


「そうですか、四代目の魔王が侵攻してきた時、われわれ人間は対抗手段もなく逃げ惑うばかりでした・・・」


 初めて魔族が人間を攻撃した時、人間側には対抗手段がなく逃げるだけで、どんどん侵略されていったそうです。


 当然、魔王領から離れた西に逃げて行きました。その過程で、魔族が魔王領または魔王から離れるごとに魔力が減っていくことを人間は見つけたそうです。これはシャーナンも知らなかったそうで、驚いていました。


 大陸の人々は、なぜか城から動かない魔王から一番遠い西の地、今の神聖シリス国がある辺りで何とか持ちこたえていたそうです。


 ですが、弱くなったと言っても魔族の力は強大で、このままでは人間が滅亡してしまうしかないと、人々が諦め始めた頃。光竜が始めて人間の前に降臨したのです。


われは光の神シリスよりの使者である。お前達人間を救うため魔王を倒すことの出来る勇者を召喚する為の儀式を伝えにきた』


 伝えられた召喚の儀式により勇者が現われた時、今のラーザン王国の王族と契約している風竜王が降り立ったそうです。


 勇者は、何をするべきか説明も聞かず、風竜王に乗り、一路魔王城へと向かい。一対一で魔王と戦い勝利したそうです。


 魔王が倒れると、魔族は人間の国への侵攻を止め、魔王領へ引き換えしたそうです。


 それを聞いた人間達は、沸き立ちました。これで魔族を滅ぼすことが出来ると。


 しかし、光竜は言ったのです。


『魔王を倒した勇者はすでに返還された。人間達よ、勇者の召喚は魔王による人間の国への侵攻時にのみ叶うであろう』


 そう言いおき、光竜は去って行ったそうです。


 それから、先代に当たる十代目魔王の時まで、侵攻が始まる前に何度も召喚の儀は行われたそうですが、一度も成功したことは無いそうです。


「つまり、光の神シリスが認めた時でないと、召喚は成功しないって事?」


「そうです、陛下が御生まれになる前にも魔族による誘拐が多発したので、何回か召喚の儀は行われたことがあるそうですが、成功したことは無いと聞いています」


「じゃあ、今回も失敗するかな?」


「おそらくですが、成功はしないでしょう」


 あーもう、心配しちゃったじゃないですか。


「じゃあ、今回わざわざ連絡してきたのは何故?」


「そうですね、本国としてはそのような動きがあるので、あまり目立つようなことはしないで欲しいということだと思いますよ」


「そんなに私の活動って目立ってる?」


 アルフレッドは少し、飽きれた様な仕草をしてから答えました。


「人間を国民とし、新しい食品を開発し、わが国と交易をする魔王が目立っていないと?」


 ん? シーリン国との交易がばれているって事でしょうか?


「そちらとの交易が、他の国にばれているって事?」


「それが発覚すれば、わが国とてただではすみません。ですが一番初めに人間を帰したのが、逆に不気味に映っているのは確かですね」


 私はただ、違う世界だけど人間としての記憶があるから、そんな人間を元に戻してあげたかっただけなんですけどね。


「それに、あなたは200年ぶりに出現した魔王です。われわれ人間は、もう魔王はこのまま生まれないだろうと考え始めていた頃でした。それが、魔族による襲撃がぴたりと止み、誘拐されもう戻ってこないと思われていた人間が戻ってきて、魔王によって開放されたと言うんです。正直に申しましょう。その時にも、勇者召喚の儀は行われました。それが失敗に終わり、静観する事を余儀なくされました。元々大陸ではなく、南西にある群島にある本国では、魔王の襲撃の時も殆ど被害は無かったので、それほどは悪感情を持ってはいませんでした。ですが、それでも魔晶石があると言う情報を掴んでも7年です、実に7年もの間、こちらとの取引の為に使者を送るかどうか、その為の会議が行われていました。自分もですが、特使であったエスメンタ卿も、本国にとっては死んでしまってもいい者として送り出されました。それほど魔王という存在は、人間にとって、いえ国の中枢にいる者にとって無視できない存在なのです」


 ここ最近では親しいといってもいい関係になれたと思っていた、アルフレッドがいつになく真剣な表情でこんなことを言うなんで驚きです。しかも、魔晶石の事は、結構早い段階でばれていた事も、今日はじめて知りました。


 人間との関係改善というのは、思っていたよりも大変なことのようです。


「いきなりこんな事を言って申し訳ありませんでした。ですが、本国では魔王陛下や魔族について、一部の者を除けば、それほど悪い感情は無いと言っていいと思います。出来ればこのまま、いい関係を続けて行きたいのは本当です」


 私が沈んだ顔をしていたせいでしょう。アルフレッドがそんな感じでフォローをしてくれました。始めて会った時から思っていましたが、彼はフォローがとても上手ですね。


「ありがとう」


 彼に心遣いにお礼を言いました。


 特に返事はしてくれませんでしたが。彼もちょっと恥ずかしいのかもしれません。ちょっとおどけた表情で、うやうやしく礼をしてくれました。


「わざわざありがとうね。よかったら今日は一緒に食事でもどう?」


「申し訳ありません、非常に嬉しいのですが、今日は急ぎ戻りやらなくてはいけない事が有りますので、またの機会にさせていただきます」


 用事があるなら、仕方ありませんね。


「そう、じゃあ今度お礼に招待するわ」


「ありがとうございます、楽しみにしております」


 改めて、礼をしてからアルフレッドが退室しようとして、何かを思い出したのか振り返りました。


「あっと忘れる所でした、ランフェルス魔大公閣下に、贈り物を預けておりますので、お受け取りください。それでは」


 内容を聞く前に、そのまま出て行ってしまいました。


 サーナに何を預けたんでしょうか?


「わざわざ、緊急の用で来てくれたのに、贈り物って何かしら?」


 シャーナンとアヴァに聞いてみましたが、2人とも、判らないという風に肩をすくめるだけでした。まあ、私と一緒に居たんですから、当然ですね。


 外に待機していたサーナはそのままアルフレッドを送るでしょうから、戻ってきたら聞いてみましょう。


 今日は色々と考えさせられる事がありました。シーリン国が例外的に魔族との関係がいいだけで、ほかの国はまだまだ魔王や魔族に対して憎悪を抱いていることも。


 領内に居る人間は、農民が中心です。教育の程度から言って、歴史にはそれほど詳しくないのでしょう。恐れる事も有りましたが、何もされないと判れば共存出来るのだと思います。


 魔王の侵略の歴史を学んでいる人間たちは、そう簡単には行かないということです。


 先を思うと、まだまだ長いという事なんでしょう。


「はぁ」

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