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私がこの世界に生まれて17年経ちました。
前の世界と大体同じ年数を生きてきたことになります。とても充実した日々です。
ほんの少しですけど、体も成長したんですよ。ブイッ
そうそう、シーリン国の特使が来てから、色々有りました。
留学の受け入れもして貰える事になって、何人かは卒業して帰ってきたり、シーリン国に残って働いている人間もいます。
魔族の受け入れは時間がかかりましたけど、留学中は魔力を抑える魔法具を付ける事と人間に見えるものだけと言う約束で行ける様になりました。ただし、それを利用して捕まえようとする人間が出てくるかもしれないので、緊急時には魔法具を外せるようにはして貰いました。
その魔族の1期生も来年卒業です。
そのうちこちらでも上等学校と大学を作れるように、教師ができる魔族を増やして行きたいですね。
領内にある鉱山も2箇所ですが、ドワーフが採掘をしています。加工した武器や宝飾品それに鉱石を輸送する為に、街道を作ることになったので、今後の事も考えて全域に街道を作ることになりました。主要部分以外はまだまだこれからなんですけどね。
どうしても森林伐採が必要な所があるので、新しい森林を作ったりして、移り住んでもらう為の準備が必要な所が多いからです。
しかも、移動した先でテリトリーが隣接した事で、いろいろと争いごとなどの問題が増えてきました。そんな問題が起きると、すぐに私の所に陳情に来るんですよね。その処理が増えて、最近は毎日何かの仲裁をしてます。
輸出のための港にはシーリン国の駐在文武官が、小規模ですが住むことになりました。武官の隊長は、あのアルフレッドさんなんですよ。
時々、魔王城まで来て一緒に食事をしたりもします。
「こちらの食事は、とても美味しいので楽しみです」
なんて言ってくれます。ちょっと嬉しいですね。
そんな感じで、シーリン国とはとてもいい関係を結んでいると思います。ほかの国とは交流がありませんが、少しずつ、いい関係に慣れたらいいなって考えています。
最近の一番の悩みは、領内に住んでいる人間の人口です。
年末年始の休暇で、人間達は里帰りや旅行をしているんですが、時々、浮浪者や孤児を連れて帰ってくるんですよね。
『昔の自分を見るようで可哀相なんです。魔王様どうにかしてあげてください』
とか言って来るんですよ。おかげで出産も含めて、人口が500まで増えてしまいました。早い人なんてもう孫がいるんですよっ!
ここまで来ると、自治をある程度人間達に任せないと大変です。留学から戻ってきた人間の一部を、アヴァの下につけて教育させています。
アヴァは奥さんと子供に中々会えなくなって、『いいかげんにしてください』と言っています。ごめんね。
増えた人間達に仕事を与えないといけません。子供は基礎教育は無料で受けられるようにしました。成績が優秀なら留学にも無料で行けるようにしています。
大人は一部が料理人になったり、託児所の職員になっていますが、大多数は乳製品の加工をしてもらっています。しかも、乳製品が好きな魔族も一緒に生産するようになったので、乳製品の加工業が大規模化していきます。最近では、牛だけではなく、ほかの種類の家畜からも乳製品を作っています。ヤギや水牛みたいな動物です。
ヨーグルトも安定して作れるようにもなりました。いい乳酸菌が付いてくれるのを、何回も実験したんですよ。
これも人気が高いそうで、魔王領だけでは生産が追いつかなくなってしまいました。それならと言うことで、生クリームとバターの製造方法をシーリン国に売ってしまいました。始めは製造方法の売買って言うのがピンと来なかったようですが、最終的には喜んで買っていきました。
そんな感じで、時々来る魔族同士の縄張り争いの仲裁が、主な業務になってきて、そろそろ人間の国を旅行してみたい、なんて考えていた頃の事です。
シーリン国の駐在官から、緊急の連絡が来ました。
「神聖シリス国が勇者の召喚をしようとしているそうです!」
連絡を読み上げたシャーナンも驚いているみたいです。
えーと・・・え?
「人間の国に侵攻なんてした覚えは無いんだけど?」
「連絡によりますと、人間達が時々連れて来る者を誘拐していると考え、今度の魔王は侵攻ではなく、連れ去って殺害し人間の国の機能を削っていく作戦で動いていると考えているようです」
それはまあ、人間が連れて来る事も有りますけど、私が生まれる前と比べてどうなんでしょう?
「私が生まれる前より、人間の誘拐って増えてるの?」
「いえ、昔と比べれば微々たる物です」
えっと、昔より少ない人数がこっちに来ているだけ?
「こういう場合って、勇者召喚は上手く行く物なの?」
「人間のする事なので、詳しくは・・・」
シャーナンもさすがに召喚についてはあまり知らないみたいで、困ったような顔で返事をしました。
歴代の魔王を倒してきた勇者です。いくら魔力が強くても、未だに5歳児くらいの体の私では、敵わないでしょう。しかも、魔力が強すぎるせいか、まだまだ魔法も上手くないんですよね。
ですが、まだ召喚されてわけではありません。こちらは侵攻していないんですから、失敗するかもしれません。
出来れば、勇者召喚に詳しい人の話が利きたいですね。
「勇者の召喚について詳しい人はいないか、シーリン国の人に聞いてみて。いればこちらに呼んで詳しく聞きたいから」
「畏まりました」
シャーナンはそう返事をすると、いつもより足早に執務室から出て行きました。
彼女は先代の魔王が倒された時、生きていたそうですから、やっぱり思う所もあるんでしょう。普段では見ることのない、焦りの様なものが露になっていました。
私も、情報を待つことしか出来ない今を、とても長く感じています。
「勇者の召喚か・・・・・・はぁ」
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