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魔王様の溜息  作者: 黒筆猫
第6章 人間との交渉
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「売るのであれば脅威にならない様、数を制限すればいいのですよ」


 ガリアの暴走が収まった後、アヴァが提案してくれました。


 元々、ある程度の数は売っていたのです。その数量をシーリン国との交易に切り替えれば、わざわざ売りに出る手間が無くなり、留学の交渉材料に出来ます。一石二鳥ですね。


 さすがに、こう言う事は人間のアヴァの方が、いい案を出してくれます。


 魔族と言うのは、魔力の強さがすべてを決めるので、あまりこう言うかけ引きには向いてないんですよね。


「せっかくですから、バターやチーズも交易に出しませんか?」


 そう言い出したのはサーナでした。


 さっきの謁見で、チーズが献上品として使われていたのを見て思いついたそうです。乳製品の販売は、料理長であるクルーのコネで各地の料理人に売っていましたが、わざわざ遠くへ行くのは面倒だったので、一番近い大陸中央にあるラーザン王国でしか売っていませんでした。それがリーリン国まで流れていたのですから、それになりに人気なんでしょう。


 売る時は、サーナの配下が運んで、行商人に変装した人間が売っていました。どうも最近、どこで作られているのか知りたがっている人が居るそうで、行商人に変装した人間をつける人が居るそうです。目くらましの魔法で誤魔化していますが、そのうち魔法使いが出てくれば誤魔化しきれないかもしれないと言う事で、この機会に交易ルートが出来るなら、それに任せるほうが安全でいい。と言うことです。


 値段次第では、交易に回すのも有りかもしれませんね。今日の会食で聞いてみましょう。


 ちょっとしたハプニングも有りましたが、こちらの方針は決まったので、会食の為に着替えに戻ります。ええ、ガリアにしわくちゃにされましたからね。


 部屋の隅に、『の』の字を書いて落ち込んでいる人物の事は、構わないであげましょう。10日間出入り禁止とか私は知りませんよ?







 と言う事で、本日2回目の入浴後、着替えをする所です。


 さっきの担当はファサナでしたから、今度の担当はマーシュアです。


 彼女はおとなしいデザインの物が多いので、安心していられます。今日の物も、襟と袖にファーをあしらった黒地に銀糸の刺繍がされたトップス、シンプルな黒い膝丈のスカートに何枚ものうすぎぬを重ねた物。白地に金糸の刺繍がされたタイツに黒いローファーで、とても落ち着いた感じにまとまっています。


 いつも髪はそのままにしていることが多いのですが、珍しく結い上げて魔晶石の周りを2匹の蛇が絡みついた意匠の簪が2本あしらわれています。


 やっぱり、マーシェアのチョイスは落ち着いた感じで安心できますね。


 さて、いい時間ですから会食へと向かいましょう。








「会食へのご招待ありがとうございます。エスメンタ特使に変わり、御礼申し上げます」


 謁見の時、騎士さんが代表して挨拶してくれました。


 6人の護衛の名前は、挨拶をしてくれたリーダーの騎士アルフレッド・ロウ・エスニット、部下の騎士エルク・ミンスト、騎士ホーネスト・グランフ、弓師マシュー・グレミン、魔法使いの女性でアシェンダ・ニールセン、魔薬師まくすしのミーミン・ロウ・アルミニトという女性です。


 魔薬師と言うのは、薬草の効果を特殊な魔法で強化する、とても珍しい職種だそうで、薬草の知識とその効果を高めるための魔法とを両方使えなければなれないそうです。


 『ロウ』と言うのは、シーリン国の貴族の称号だそうです。


 書状と贈り物を持っていた2人(従者だそうです)は、特使のおじさんを看病しているので、今回は来られないそうです。


 始めは緊張していたんでしょう。口数も少なかったんですがクルーの料理のおかげで、調理法や生クリームやバターなどの乳製品を使った料理を食べて、賞賛や驚きの声が上がるようになって来ました。


 メニューとしては、アスパラガスみたいな野菜のベーコン巻き、魔王領特産の見た目はリンゴで味や食感は洋梨の生ハム巻き、カボチャっぽいポタージュスープ、バターたっぷりのオムレツ、クリームチーズ入りのパンなどなどです。


 そして、バニラの代わりにアルコールを飛ばしたブランデーで香り付けをした、アイスクリームをデザートに食べている時でした。


「陛下、もしかしてチーズはこの国で作られているのではないのですか?」


 アルフレッドさんが、確信に満ちた目で質問してきました。


「どうしてそう思うの?」


 内心驚きながら、質問で返してみます。


「謁見の時に特使殿がチーズについて説明をしていて、非常に困ったお顔をされていました。それだけならば、聞いた事のない食べ物で判断に困っているとも考えられますが、この会食のメニューです。チーズと同じくバターも非常に珍しいもの、それをこれだけふんだんに使ったオムレツという料理、それにこのパンに入っている物、チーズの一種ではないのですか? こんなものは、世界中のものが集まるシーリン国でも見たこともありません」


 中々よく見ていますね。まあ、もう隠すつもりも無かったんですけどね。


「そうね、パンに入っている物、クリームチーズと言うんだけど、日持ちしないから外には売ってないのよ。実はスープにもバターに加工する前のものが入っていたんだけど、気がついた?」


「スープにですかっ?!」


 うんうん、驚いてる。ちょっといい気分かも。


「実は条件次第で、チーズやバターも交易品に加えてもいいと思ってる。まあ、特使のエスメンタ卿の体調が治って、その後の交渉しだいだけどね」


 交易品に加えてもいいと言う話を聞いた瞬間、立ち上がりかけたアルフレッドさんが、特使のおじさんの事を話題に出したとたん、あきらめた様に座り込んだのが印象的でした。


「申し訳ありません。エスメンタ特使もそれなりに有能な方なのですが・・・」


 言い難そうにしているけど、これ以上は自国の内情を話すわけにもいかないのでしょうね。


 まあ、こちらの希望もあるし、交渉しやすい環境を整えた方がいいと思ったので、今後の事はアヴァに任せたほうがいいかもしれません。人間が相手なら、話もしやすいでしょう。


「今後の交渉は部下の人間に任せるから、エスメンタ卿も話しやすいでしょう」


「人間と申しますと?」


 不思議そうにアルフレッドさんが、聞いてきます。


「謁見の時に眼鏡を掛けた男がいたでしょう。あれは、あなた達と同じ人間よ」


 今度はアルフレッドさんだけでなく、全員が驚きで立ち上がってしまいました。


「人間だったんですかっ?!」


「ええっ!!」


「そんな、まさかっ!」


「魔族だとばっかりっ!」


 なんだか色々と言われています。もうちょっと脅かしたくなりました。


「あなた達に付いている侍女達も人間よ」


「「このべっぴんさん達がっ!」」


 部下の騎士2人が叫びましたが、アルフレッドさんにひと睨みされて、取り繕うように頭をかいて笑いながら席に付きました。


 そんな中、弓師のマシューさん(だったかな?)が小声で、近くにいる侍女にナンパを始めました。


 人間だと判ったからとはいえ、魔王の目の前でナンパをするとか、中々度胸のある人ですね。それとも、聞こえていないと思っているんでしょうか?


 魔王の聴力をなめたらいけませんよ?


「念の為言って置くけど、全員既婚者だから、手を出さないでね」


 ナンパをしていた、(たしか)マシューさんがあっさり諦めたようです。人妻の方が好き、という人じゃなくて助かりました。

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