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魔王様の溜息  作者: 黒筆猫
第6章 人間との交渉
20/26

 シーリン国の特使と護衛の人達は、昨日には城に到着していたんですが、体力的にも精神的にも疲れているでしょうから、一晩休憩してから謁見することになりました。


 人間の国の使者との謁見と聞いて、一番張り切っていたのが侍女たちです。取って置きの服を用意すると言っていました。どんなものを着せられるかと思うとちょっと怖いです。


 今日の衣装担当のファサナが、『何事も始めが肝心です! ふっふっふっ、ミナ様の美しさを引き立たせる、最高のドレスを用意しますよ!』と言っていました。


 彼女はミニスカートだったり、肩を出した服を用意する事が多いので、いつも、少し恥ずかしい思いをしていたんですが、張り切ったらいったいどうなるのか、とても怖いです。


 そんなことを考えながら入浴も終わり、出された服を確認します。


「ミナ様、今日の洋服はこちらになります」


 出された服は、そのままだったらとても恥ずかしい、体にぴったりとしたドレスで、チューブトップにお情け程度の肩紐が付いていて、スカートは膝下のタイトな物で両サイドに太腿の中間辺りまでスリットが入っている物でした。それだけだとさすがに嫌がると思ったんでしょう。上には袖の長いボレロを着るようになっていました。素材は全て、艶のある黒で、艶のない黒い糸と金糸で、刺繍がふんだんにされた物です。足は黒地に白の刺繍がされたストッキングにエナメルのような光沢の白いヒールを履きました。


 今日のストッキングは少し短めで、スリットから少しだけ肌が見えてしまいます。そう言ったら、『その少しだけ見えるのがいいんですよ! 人間なんて悩殺しちゃってください』と言われてしまいました。


 幼女が悩殺って、どうなんでしょう?


 何故かみんな、私に黒い服を着せたがります。たまにな違う色の服を着たいと言った事もあるのですが、『ミナ様には黒が一番似合うんです!』と言われて却下されてしまいました。


 最後に、普段はいらないと言って付けない、アクセサリーを付けました。例の売ることができない魔晶石をあしらった金のネックレス。何かの花をあしらったプラチナのイヤリング。左手首にシンプルな5m幅の下地に蔓の様な物が絡まった意匠が施されたブレスレットを付けました。


 国として、舐められない為には必要なので、今日は気合が入っています。特使がいる間はずっとこうなると思うと、ちょっと気が重いですけどね。


 この後、食事をしてから謁見です。先に食事に招待しようと思ったんですが、こういう事は謁見後じゃないと駄目だそうです。人間の国の作法を知っているアヴァがいて助かりますね。会う前に食事をして落ち着けるのは、私も落ち着く時間が取れるので助かります。


 では、いただきま~す。






 やって来ました、謁見の間入り口です。今回は人間の国の使者が相手です。さすがに緊張しますね。


 今回はシャーナンも注意事項は無いみたいで、そのまま入っていきます。まず見えるのが、先に入っていた他の魔大公3人とアヴァ、そして、シーリン国の使者が3人でしょうか、その後ろに護衛らしき人が6人控えています。


 それを確認した所で、玉座に到着です。相変わらず大きいので、いつのもポジションで横座りします。シャーナンが私の右に、アヴァが左に立ちます。アヴァが横に立つのは相手が人間なので色々アドバイスが欲しいからです。残りの魔大公達は、私の左後ろに並んで立っています。


「陛下の御なりである」


 いつものシャーナンの口上から始まります。


「魔王陛下におかれましては、今回の謁見を承諾して頂き誠に有難うございます」


 前列、一番右のロマンスグレーのおじさんが、使者の口上を始めました。


わたくしはシーリン国評議会より特使の役目を頂きまた、ハインツ・ロウ・エスメンタと申します。評議会よりの書状、並びに、贈り物をお持ちいたしました。どうぞお受け取りください」


 口上が終ると、おじさんの横にいる2人が、それぞれ書状を載せたお盆と、何か箱を持って使者と私の中間辺りまで進み出ます。


 イルとサーナが、受け取って私の前に持ってきました。


 私がまず、内容を確認するために、書状を受け取ろうとした時、使者のおじさんが贈り物の中身についての説明を始めて、手が止まってしまいました。


「そちらの品は、ラーザン王国やアルミナ王国でしか手に入らない、チーズと呼ばれる非常に珍しい食べ物にございます。ぜひ、魔王陛下に御賞味して頂きたく、お持ちいたしました」


 すいません、毎日食べています。


 ・・・・・・・・・ではなく、うちで作っています。


 魔大公達や、アヴァもどう返答していいか悩んでいるようです。もちろん私もです。


「これどうしよう?」


 小声で、アヴァに相談します。


「さすがに、『どうしよう』と言われましても・・・」


 それはそうですね。


「ミナ様が、こちらで作っているのを明かすがどうか次第です」


 そうなんですよね、そろそろ、お礼の言葉とか何か言わないといけないのに、こそこそと相談しているのを見て、使者のおじさんがチラチラ不安そうに様子を伺ってる。


 仕方ないですね。とりあえずお礼だけは言っておきましょう。


「このように珍しい品、感謝します」


 お礼を言うと、明らかに安心したのが判ります。ちょっとシャーナンが咎める様な目をしてます。丁寧に言い過ぎたかな? 


 後は書状の内容ですね。確認してみましょう。


 ん~っと。季節の挨拶とか、前置きが長いですね。


 え~っと・・・


 簡単に言えば、魔晶石の定期的な取引がしたいと言う事ですね。どうやって知ったのでしょう?


 ちょっと聞いてみますか。


「この書状の内容。あなたは知ってるの?」


 私が質問すると、使者のおじさんがビクッと体を跳ねさせた。


 そんなに驚かなくったっていいと思いますよ。


「は、はいぃぃっ、ない、内容にちゅきましてはし、ししし、知っておりましゅぅぅぅっ」


 あ、噛んだ。このおじさん、さっきまで普通に話してたのに急にどもり出しましたね。大丈夫なのかな?


 まあ、緊張してる方が、誤魔化す余裕も無くていいかもしれません。


「うちで、魔晶石が定期的に売れるほど取れる事、どうして知ってるのかしら?」


「そそそっ、それは、わひゃくしには、しらしゃれておりまへん」


 また噛んだ。本当に大丈夫かなこのおじさん?


「申し訳ありません、よろしいでしょうか?」


 見かねたのか、後ろにいる護衛の騎士らしき人が発言の許可を求めてきました。


「いいわ、何かしら?」


「はっ、エスメンタ特使は、まだ旅の疲れが残っているようですので、一度下がらせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 こっちの人は、はきはきとしてますね。丁度いいです。こちらでも話し合いたいですから、一度下がった方がいいですね。


「判りました、こちらも書状の内容について検討したいこともあります。特使殿はゆっくりお休みなさい」


「あ、ああっ、ありがひょうごじゃいます」


 なんだかどんどん、ろれつが回らなくなってる?


 そう言えば、会食はどうしようかな?


「そう言えば今夜、会食の準備をしていたのだけど、その様子では無理かしら?」


 尋ねた途端、使者のおじさんが、ビクッっと跳ねました。ええ、1メルト(1メートル)は跳ねて、泡を吹いて倒れてしまいました。


「特使殿!・・・大丈夫ですか特使殿!!」


 さっきの騎士が、あわてて介抱しています。魔王との食事が怖かったのかな?


 食事に誘っだけで失神されるとか・・・・・・さすがに落ち込みますよ?


 使者のおじさんは、書状と贈り物を持っていた2人に運ばれて、退室して行きました。


「申し訳ありませんでした」


 騎士の人が、何とか取り繕おうとしていますね。


 魔王の食事が普通じゃないとでも思ったのかな?


「特使殿はお疲れだったようね、仕方ないので、あなた達を会食に招待するわ。安心なさい、食材はほとんど人間の国で買ったている物だし、料理長も人間よ」


 始めは他人事だと思って安心してたのかな? 代わりに招待すると言った瞬間、全員ビクッとしたけど、材料や料理長の事を言ったら、多少は安心したみたい。


 騎士の人が周りに確認するように、目配せをした後。返事をしてくれました。


「謹んで、ご招待受けさせていただきます」


「じゃあ、夜に会いましょう」


 シャーナンに抱き上げてもらいながら人間達の様子を見ると、やっと終って安心しているようでした。


 魔王相手の謁見ですからね、一部を除いて滞りなく終われてほっとしているんでしょうね。


 それにしても、シーリン国の評議会の人達・・・失神するような人選は勘弁してください。

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