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やって来ました、初人間の国。
案内役にアヴァンドを、護衛と人目に付かない魔法の為にガリアを伴ってやって来たのは、大陸の北にある建築と鍛冶の国、アルミナ王国の田舎領主のお膝元の町です。今回ここで、御領主様の嫡男の成人祝いの為に例のクルー・ウィックが雇われたと言う情報の元、スカウトに来たんですよ。
宿泊場所は、領主の館の一室らしいですが、魔大公の魔法にかかれば進入など容易い事なのです。しかも私が一緒なので、ガリアのやる気は倍増のさらに倍!!
祝いの最終日の夜、厨房の明かりが消えるまで待ちます。アヴァンドの言うには、黒髪や黒い瞳は、忌み色として人間の国では迫害を受けるそうなので、目立たないようにする為だそうです。代々の魔王が黒髪で黒い瞳だからだそうです。う~ん、魔王は嫌われ者ですね。
寝静まった頃、アヴァンドの先導で館の中をのんびり歩いていきます。
ガリアはどちらかと言うと、戦闘に関する魔法の方が得意で、こういう隠密めいた事はイルやシャーナンの方が得意なんですが、さすがは魔大公と言う所でしょうか? 貴族の館ともなれば、お抱えの魔法使いが1人はいるはずという話なのですが、まったく気づかれません。
一つのドアの前でアヴァンドが立ち止まりました。ここがクルー・ウィックの部屋という事なんでしょうか?
「ここ?」
「はい、こちらです」
やっぱりここのようです。使用人の部屋らしく、内側に簡単な閂が有るだけ(ドアに小さな板見たいなのがあってそれを倒すようなやつです)らしいので、ガリアに開けて貰います。
中に入り、ガリアが部屋に結界を張ったようです。これは、人払いと遮音の結界かな?
私は、まだまだ魔法を使うのは苦手ですが、人がどんな魔法を使っているのかは、一度見たものなら判る様になって来ました。
さて、クルー・ウィックは寝ています。どうやって起こしましょう?
「簡単に起こす方法ってないかな?」
「お任せを・・・」
ガリアが答えながら、クルー・ウィックの方に手を伸ばして、何か魔法を使っているようです。これは精神に働きかける魔法でしょうか? 始めてみるので詳しいことは判りませんでしたが、まあ危険な物ではないようです。
「う・・・」
クルー・ウィックが起きようとしています。部屋が暗いままだったので、蝋燭に魔法で火を点けます。これくらいは出来る様になったんですよ。エヘンッ
クルー・ウィックは、強制的に起こされたせいか、まだボーっとしているみたいです。
私は、ガリアに降ろしてもらって、クルー・ウィックの寝台のそばまで行き、スカートの中間辺りを両手でつまんで、軽く持ち上げながら少し腰を下げて、頭を傾けて挨拶をします。
「始めまして、クルー・ウィック。私は魔王のミナフィリスと言います」
まだ目が覚めていないのでしょうか? クルー・ウィックは寝台で上体を起こしたまま身じろぎもしません。
「クルー・ウィックさん、起きてますか?」
反応がないので、もう一度声を掛けて見ました。
「えーっと、魔王?」
クルー・ウィックさんは、確かめるように私を指差しながら聞いてきました。
「はい、魔王のミナフィリスです」
「後ろのあんちゃんじゃなくて?」
あんちゃんとはガリアの事でしょうか?
「いえ、私が魔王です」
やっぱり、こんな幼女が魔王だとは思えないみたいです。
まだ目覚めきっていないのでしょうか? 私を指差したまま『魔王?』と、何度も言っています。
「魔王だってっ!!」
ひときわ大きな声でそう言って、寝台の隅の壁に張り付いてしまいました。
「おっ、俺っ、俺なんて食っても美味くないぞ! そっ、それに、俺にはまだまだ美味い飯を作るための研究だってあるんだっ!!」
「いえ食べませんよ」
「嘘だっ! そうやってだまして連れて行こうとしてるんだろっ!?」
魔王の悪名は凄いですね。落ち着いてもらえないと話も出来ません、どうしましょう?
「ふん、貴様のような魔力の少ない人間など、陛下がわざわざいらして連れて行く価値などない」
落ち着かないクルー・ウィックにイラついちゃったのか、ガリアが脅すような事を言う。
クルー・ウィックは、私とガリアを交互に見ている。
「じゃあ、何だってんだ?」
あれ? 逆にお落ち着いた?
「あなた、新しい料理が作りたいんでしょ?」
「それが、なんだってんだ?」
「魔王領の食材や、人間の国だと考え付かない方法って興味ない?」
「魔王領の食材か・・・」
意外と好感触?
「興味がないとは言わねえが、そうだったら何だってんだ?」
これは、チャンス!
「研究ついでに、私の料理長にならない?」
「俺は、どんなもん出すか判んねえぞ?」
ここです! 乳製品はバリエーションが広いですからね。上手く誘導すれば大丈夫なはずです。
「始めに私の指定した食材を使ってくれれば、多少は我慢するわ」
「その食材ってなんだ?」
「引き受けてくれれば、現地で説明するわ」
クルー・ウィックは顎に手をあて、考え込んでいるみたい。
いきなりOKが貰えるとも思っていないので、今日はこれくらいでいいかな?
「考えておいて頂戴、そのうちまた来るわ」
そう言って、ガリアに抱き上げて貰おうと、振り返って腕を上げた時。
「待ってくれ」
何だろう? 質問でもあるのかな?
「もし・・・もし承諾したとしてだ・・・時々は実家に帰ったり、手紙を出したりは出来るのか?」
「別に、魔族の事を喋らなければかまわないわ」
「じゃあ、給金はどれくらいだ?」
実は料理人の給金なんて、よく知らないのだけど、どうしようかな? とりあえずごまかすしかないかな。
「実際の能力と交渉次第かしら?」
「そうか・・・」
クルー・ウィックは、また、顎に手を当てて考え込んでしまいました。
「認めれば、金貨2枚でも出すか?」
金貨2枚ですか・・・私の食べたい物が作れるなら、出してもいいかもしれません。
「そうね、私が食べたい物を作る事ができたら、出してもいいわ」
「秘密の食材ってやつか?」
「ええ、普通の人間だと多分無理なのよ」
「そうか・・・はっはっはっ・・・そうかっ! おもしれえなぁ。魔王様の料理長か。世界が広いったって、そんなのは早々いねえよなぁ」
なんでしょう、急にテンションが変わりました。この人は大丈夫なんでしょうか?
「よっしゃ!連れっててくれ!」
は?
「えーと、準備とかいいの?」
「俺の仕事道具ならここにあらぁ」
「いきなりここから消えて大丈夫なの?」
「こんな、つまんねぇ仕事なんざぁどうでもいいんだよっ!」
唖然としてしまいましたが、来ると言っているのなら文句もありません。ガリアに、クルー・ウィックがいきなり消えても、不振がられない洋に出来るか聞いてみたら、出来るそうなので、その魔法を掛けてもらってから、城に帰る事にしました。
これで、美味しいデザートが食べられそうです。
ブイッ