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魔王様の溜息  作者: 黒筆猫
第4章 魔王様の食事情
13/26

 生まれ変わって、半年が過ぎました。


 最近は農業と酪農研究に忙しいです。


 大陸の気候は、多少の差はあっても四季があって、日本と同じような感じです。私が生まれたのは冬だったそうで、これから作物を育てるのには準備期間も含めていい時期だったようです。


 あっ、魔族は無意識のうちに体の周りの温度を調整するので、暑いとか寒いとは気にならないそうです。冬の夜に裸でいたのに、気にならなかったのはそのせいだそうです。


 人間を帰したあと、残る人達に農業や酪農を任せるにしても、苗や種、牛や鶏、農作業用の道具がいります。それに人間達の住居もです。


 この半年その手配とかにおわれて、忙しかったです。


 色々お金が必要だったので、先代魔王の魔晶石はもう残り少ないです。なので私の魔晶石を1個砕きました。これでしばらくは大丈夫です。


 と言うことで現在、色々な作物を植えて、どれがここの土地に合っているか実験中です。植物と言うのは土の中の微生物に手伝ってもらわないと、上手く育ちません。入院中に読んだ雑学の本に載っていました。まあ、この世界もそうなのかは判りませんけどね。


 動物は、実験として牛(牛っぽいのでそう言っています)のオスメス一頭づつと、鶏(同じく鶏みたいなので)五羽を育てています。


 今の所、食材は定期的に人間の国に買いに行ってもらっています。もちろん人間たちにですよ?魔族は買い物とかはしないので、何がどんな値段とか、何をどれくらい買うとか、判断できないんですよね。人間の国まで徒歩で行くには遠いので、人里から見つからない距離まで、例のバーフェルドさんが送迎しています。エダさんの為の食材が欲しいので、自分からやると言ってきました。


 不思議に思ったので、今まではいったい何を食べてきたのか聞いてみた所、魔王領にもいる、野生の動物の肉とか、木の実とかを食べさせていたそうです。さすがに同情してしまいました。


 そんなこんなで、私の食生活は充実して来ています。ただ、みんな農村とか田舎中心なので、レパートリーが偏っているんですよね。やっぱり、自分の家で育てていた作物が材料の料理が多くなっちゃいますよね。


 あと、デザートと言うか、甘い物です。やっぱり私は女の子なのです。甘い物が食べたいのです。この世界にも砂糖はあるそうなんですが、結構な高級品だそうで、一般市民はめったに口に出来る物ではないそうです。なので、当然甘い食べ物の作り方なんて知りません。入院生活をしていた私だって、料理なんて知りません。


 でも食べたいです!!


 魔力と魅了を押さえられるようになってきた私は、時々、人間達の様子を見に行ったりもしていたので、まとめ役をしているアヴァンドさんに相談してみました。


 フルネームはアヴァンド・キシェクと言って、珍しくこっちに残った男の人です。初日の謁見の時にいたインテリ風のあの人です。茶髪で散切り(魔族には散髪をする習慣が無いそうで自分でナイフを使って切っているからだそうです)頭で、じっくり見ないと、あけているのか判らないくらい細目で、肉体労働なんてしたことの無さそうな、ほっそりとした人です。


 聞いてみたら、元々は地方貴族の元で働いていた役人だったそうで、上司に横領の罪を着せられて逃げていた所を、最近魔族に捕まって連れて来られたそうで、戻っても捕まって処刑されるだけなので残ったそうです。


 魔族に捕まって諦めかけていた時に、私が帰すために集めたので、非常に感謝していますと言われました。


 そんなわけで、農家の人達よりは人間の国の事もよく知っているだろうと思って聞いたわけです。


「甘い食べ物ですか?そうですね、流しの料理人なら雇えるかもしれません」


 流し?いったいどういう人なんでしょう?


「流しって?」


「はい、庶民にとって料理人は憧れの職業で、希望者が多いのです」


「どうして希望者が多いの?」


「庶民が高給を目指すなら、魔法使いか、役人か、料理人なのですが、われわれ人間の大多数は、魔力はあっても生活魔法が使える程度しかありません。役人になるにはまず、勉強を習うためのお金と時間の余裕が必要です。その点、料理人ならばどこかに弟子入りすればいいだけです。そんな状況なので、貴族の家や、大きな食事所は弟子が多くなるのですが、人の多い分派閥争いに負けて出て行ったり、ちょっとした事でクビになるのです。そうして出て行った料理人の中である程度の腕がある者が、普段は少数の料理人しか雇えない貴族や大きな商家などで、祝い事のある時に臨時で雇われる流しの料理人になるのです」


 んー、そんな人間が雇えるのかな?


「そんな人気の職業の人が、魔王にやとわれるかな?」


「派閥争いが元で流しになった者の中には、人間関係に嫌気がさして王族から誘われても、決して従わない者がいます。魔王様の下でなら逆に人間関係に悩むこともないと言えば、雇われる酔狂な者もいるかもしれません」


 アヴァンドは時々、こういう皮肉めいたことを言う。私至上主義な魔族だと決して言わない言葉で、それが新鮮で結構気に入ってたりすます。


「魔王様じゃなくて、ミナって言えっていってるでしょっ!」


「申し訳ありません、ミナ様」


 そういって、アヴァンドは片ひざを付いて、私の右手を取り、手の甲にそっと口づけをする。


 そうされた私が、照れるのを見るのが好きらしい。


 ついでに、私を人間の所まで連れて来てくれたイルが、私の後ろで怒りをあらわにするのを見るのも好きらしい。


 人間達が怖がらないように、見た目だけなら人と変わらない、魔人族に管理を任せているので、ここに来る時は上司であるイルに連れて来て貰ってるんですよ。


 私が手を出さないように、きつく言って有るのを知っているので、アヴァンドは嫌味な笑い方をしながらイルの方を見ている。


 手を出せないイルは、怒りを抑えながら注意をする。


「ミナ様の手を触るだけでなく口づけまでするとは、人間の癖に何様だっ!」


 普通の人間なら、魔王に次ぐ魔大公の怒りなんて物は、想像するだけで震え上がるものらしいのに、アヴァンドは何処吹く風と言う感じで気にもしていない。いくら私が手出し禁止と言ってあるとはいえ、中々出来るものじゃないと思う。近くで作業をしていた人間たちなんて、離れているのに農具を放り出して建物の影に隠れちゃってる。


「人間として女性に対する、最上級の礼なんですよ。何度も言っているでしょう?」


 アヴァンドがこう受け答えをすると、口喧嘩が始まる合図になってる。忙しい時は、『申し訳ありませんでした。キュバス魔大公閣下』て言うんだよね。


 こうなったら、しばらくの間は止めないことにしてる。始めの頃は止めてたんだけど、しばらくイルの機嫌が悪くなっちゃうの。機嫌の悪い淫魔って、アレ、が凄くしたくなっちゃうんだって、でも城に戻るまでは私を抱っこして運ばないといけないからイルも我慢してるんだけど、どうしても抱っこをする手がね・・・・・・うん、ちょっとやらしくなっちゃうんですよ。


 なので、私の安全の為にもここで怒りを発散してもらうのでした。

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