第2話 おとぎ話の魔法使い
2話です!
私は呆然と立ち尽くした。指先が、無意識のうちに自分の唇に触れていた。微かに熱を帯びていて、まだほんのり感覚が残っている。
(えっ…これ、私…キス、された…?)
目の前には、尖った帽子に長いマント、古めかしい魔法使いの衣装――その全てが絵本から飛び出してきたようなカリウスが立っている。
「ファースト、キス、だったのに」
彼は一瞬だけ目を細め、肩を軽くすくめて笑った。
「……あれ、そうだったの?お嬢ちゃんの初めて貰っちゃった。嬉しいなぁ」
魔法使いカリウスは口では嬉しいといいながらも、顔は先程と一寸も変わらない軽薄な笑みのままだ。
「それに『魔法使い』?……うそ、ちょっと待って。冗談でしょ……?おとぎ話の中だけじゃないの…?」
私が困惑しているとカリウスの帽子の先端の装飾から、淡い金色の火花が跳ね上がる。光は空気を揺らし、ほんの一瞬、周囲の影をねじ曲げた。
『おとぎ話、か。……まあ、そうだろうね。俺たちが「聖剣」に閉じ込められてから、もう何百年経ったのかな? 外の世界じゃ、俺たち魔法使いの存在なんて忘れられて当然だよ』
「…………本当に、本物なの?」
『本物だよ。……ほら、あのガラクタ達が、それを証明しに来てくれたみたいだし?』
カリウスが指を指した遺跡の暗闇から、地響きのような重低音が鳴り響く。
「……っ、何!? あの音……!」
目を向けると、人間ではない何かが迫ってきている。鈍く光る鉄の装甲に、びっしり刻まれた謎の回路。十数体の古代守衛、聖剣の盗人である私を排除せんと迫る。赤く光る目は、古の魔力で駆動されている証だ。
(あんなの……勝てるわけない……!)
私の絶望をよそに、カリウスはふわりと浮き上がるように一歩前へ出た。大きなウィッチハットのつばを指先でなぞり、口元を軽く釣り上げる。
『あはっ! 懐かしいね。……まだこんなガラクタが動いてたんだ?』
古代守衛の一体が、丸太のような鉄の拳をカリウスに振り下ろす。凄まじい風圧が地面を叩くが、カリウスは器用に避けながら古代守衛片手を軽く弾くように指を鳴らす。
空間が弾ける音。古代守衛の鉄の腕が、目に見えぬ力で粉々に裂ける。
『俺は「強欲」なんだよ?……この遺跡の魔力も、そのガラクタの動力源も、ぜーんぶ俺のコレクション!勝手に動くなんて悪い子だぁ。そんな悪い子はさっさと片付けちゃおうか!』
両手を広げると、背後から無数の金色の光の鎖が溢れ出す。生き物のように蠢き、守衛たちの装甲を絡め取り、その魔力を強引に吸い上げていく。巨大な鉄の塊は、まるで玩具のように無力化され、光と共に崩れ落ちた。
『……ふぅ、お掃除完了。』
「これが……魔法……」
(見たこともない力……怖い)
『あはは、これだけで圧倒されちゃうなんて、まだまだ子供だなぁ』
カリウスの軽薄な笑みの奥に、何百年も封じられ続けた魔法使いの威厳が光る。
その姿は、どこか美しく。
そして――恐ろしいほどに圧倒的だった。
2話も読んでくださりありがとうございます。
来週も同じ時間帯に更新しますのでそちらも読んでくださると嬉しいです。




