第1話 魔法使いが眠る地
初連載です!没落貴族の少女と軽薄な魔法使いの物語です。
毎週金曜更新予定です。
私は没落した男爵家の一人娘、オリヴィア。
今は亡き父が運良く商売を当てて爵位を買ったものの、所詮は一代限りの「成金貴族」。マナーも人脈も持たない両親は、貴族社会の荒波にあっさりと呑み込まれ、残ったのは膨大な借金と「没落」の二文字だけだった。
生きるため私が選んだのは、ドレスを脱ぎ捨て、泥にまみれて古びた遺跡を漁る「探索者」の道。
もちろん、命の保証はない。けれど、失うプライドなんて最初から持ち合わせていなかった。
今日向かったのは、深い原生林の奥に眠るという
――通称【魔法使いが眠る地】。
今は「剣」が世界を支配する時代。
魔法は、貴族が蝋燭に火を灯す時に使う程度の、ほとんど忘れられた力に過ぎない。
所詮魔法なんて、しかも魔法使いだなんてと笑われるが、もし実在したなら、その遺物は闇市場で一生遊んで暮らせるほどの値がつく。
「はぁ……。すごっい、蔓ばっかり。全然、金目のものがないじゃない!」
ナイフでシダ植物を払い除け、重苦しい湿気を吸い込みながら進む。
金色に輝く髪は湿気を帯びた空気の中でも少し目立ち、澄んだイエローグリーンの瞳は血なまこになって物珍しいものを探していた。
ふと、視界が開けた。
生い茂る緑のカーテンを抜けた先に、それはあった。
崩れかけた石造りの祭壇。
木々のわずかな隙間から差し込む一筋の光に照らされ、一本の剣が垂直に突き刺さっている。
青い柄の装飾は過剰なほどに洗練され、中心部には淡い光を放つ 七芒星の紋章 が刻まれていた。
その神秘的な星紋が、ただの遺物ではないことを告げている。
――この剣は、伝説の七聖剣の一振りであり、魔法使いを封じた証なのだと。
「……きれい」
吸い寄せられるように、私はその柄を掴んだ。
ひんやりとした金属の感触が指先に伝わると同時に、力を込める。
驚くほどあっさりと、剣は祭壇から抜けた。
『――ふぅーん。今度の主は、随分と可愛らしいお嬢ちゃんだね』
「……っ、え? 声!?」
心臓が跳ねた。
周りを見渡したが苔むした岩と木々があるだけで、人間は私一人だ。
『ここだよ、ここ。手元を見てよ』
声は、自分の手元から響いていた。
手にした剣が、脈打つように淡い黄金の光を放っている。
『この剣の中から話してるのさ。ねぇ、驚いた?』
剣の影が、ゆらりと陽炎のように立ち上った。
それは次第に輪郭を持ち、背の高い男の姿を形作っていく。
夜の海のような深いブルーのコートを羽織り、頭にはおとぎ話の絵本で見たことがある魔法使いの帽子を載せた男。帽子の影から海のような鮮やかな青い髪と太陽のように鋭く輝いている黄金の瞳が覗いている。
幽霊が見えた、と思った。
逃げようと足がすくんだ瞬間、その幻影が風のように私の懐へ滑り込む。
『それじゃあ、剣を抜いたんだから、正式に契約をしないとね。
―――魔力をちょっと拝借させてもらうよ』
冷たい指先が私の顎をくいと持ち上げる。
「え、契約っ?…ちょっ……まっ」
抵抗する間もなく、柔らかな感触が唇に押し当てられ、何かが吸い取られていくような感覚がする。
『……ん。……あはっ、ご馳走様。やっぱり「生身」の魔力は最高だね』
驚きと戸惑いで視界が霞む中、男は軽く片目を瞑って笑った。
そして、ひらりと手を離すと同時に、その身にまとっていた影のような布が鮮やかな色彩を取り戻し、ゆっくりと実体を持ち始めた。
「俺は魔法使いカリウス。よろしくね、お嬢ちゃん♡」
私の心臓が早鐘のように打つ。
戸惑い、恐怖、でもどこか胸の奥が期待で熱くなっている。
これが、私とカリウスの最低な出会いだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます!本日は2話更新します!




