自家製なるとは失敗の連続!
「 「 ごくり 」 」
机に腰掛けて、生魚を握り締める、女児。
それを、固唾を飲んで見守っている、僕。
そんな構図になっている。
試作型なると製造機は、体形(?)が調理器具ではない。
「それでは、なるとにするのれす!」
「まずは、魚を投入……どっから?」
が ぶ り っ !
もぐもぐ んっぐ もぐもぐ んぐぐ!
「やっぱり、そうなるのかぁ」
咀嚼だ、かなりきつそうだ。
生魚をそのまま咀嚼してる。
「大丈夫?」
「だいじょ、うっ、げろげろげぇ~」
「あ~ぁあ……言わんこっちゃない」
ちょっと調べてみる。
[ 下処理 ]
① 三枚おろしの身を水洗い
② 水気を切る
③ ミンチにする
先代なると製造器と同じだ。
どこを開いても書いてある。
ここは変わらない気がする。
「なるみ2026。まずは下処理から!」
「したしょり?」
「こっ、こら! たくし上げるのはやめなさい。なると作りにアッチの処理は必要ない。魚の下処理だよ、きちんと戻して台所に来て?」
逃げるように台所に走った。
毎回やっていた下処理、もう手馴れた作業。
まな板に新しい魚をのせる。頭を落としてワタを取り、背骨にそって包丁を入れていくと三枚おろしになる。スッと腹骨を薄く落としたら、まな板に押し付けて、皮を引く。小骨の多いところを切り落とすと……
「ほら、骨が無くなったでしょ? この身を水洗いして、ポンポン、ほい」
「したしょり、すごい!」
「モグモグできるかな?」
「にゃらわきゃいのれす」
「飲みこんでから話して」
なるみ2026はゴクンと飲み込み「おいしい!」と驚いてから、腕組みをして「うむむっ」と険しい顔をして、まな板に残った骨や皮をつついた。
「したしょり。これ覚えます」
「え?!」
そこを全自動?
いや、待てよ?
AI搭載で学習機能がある。
練習次第で三枚おろし可能。
それなら……人型も納得だ。
すごいぞ鳴海工機製作所ッ!
「では、練るのれす!!」
練ってる?
お尻を振ってウネウネ踊ってるけど。
逆なのか!
お腹の中の魚を回そうとしてるんだ。
だから、主にお尻を振っちゃってる?
踊りかたで違う仕上がりになるとか。
大昔、『フラフープで腸捻転』って話が拡散したことあったなぁ。
今も健康グッズとして販売されている、あれはウソだったのかな?
「うぅ、ふ、こ、こっれくらいで」
「あ、うん」
「お、おっ、おゆるしてください」
「これ僕がストップする工程?!」
「も……むり、なの……れ……す」
「ごめん、ぼんやり考え事してたっ! でも先に言っといて?!」
なるみ2026はグッタリしたまま途切れ途切れで「っか、かねつぅ、おしだすんれすぅ」と説明した。今、この状態からの加熱・押し出し。そんな無茶ができる体調には、到底見えなかった。
なると製造機の……体調?
「しばらく座って、休んでから」
「いえいえ、がんばるのれす!」
グッと踏ん張った、直後。
「出そうれすぅ」
「えっ……え?」
「 っう 」
「 そ こ か ら ?! 」
オ ヘ ソ から。
なんか、でてきた。
「なっなるみ待て待てストップ聞いてない先に言って?!」
「 ぅ ぁぁ」
ストップもなにも、そこで力尽きた。
「魚肉のペーストだなぁ」
「べっちゃり生なのれす」
「それより。おヘソが出口、知らなかったよ?」
「また失敗なのれす……」
う~む。
押し出し成形で『の』の字を入れる、鳴海工機の特許製法。先代なると製造器ができたのは、そこまで。つい先日までは、それを鍋で茹でていた。
なるみ2026の腹筋で可能かどうかは、一種の賭けだ。さらに茹でてくれる、手間いらずなんかじゃない、なるみ2026は確実に進化してる。
「激しく踊ってから、加熱・押し出し。踊る時間はタイマーで調節するにしても、膝はガクガクになっちゃってて、押し出しは……う~ん、どうしたもんか」
楽な姿勢かぁ。
先代の箱をヒョイと持ち上げると、なるみ2026が「びっくぅ!!」と怯えて「ささささんぱいしょぶん」とガタガタ震えだした。「続きはコッチの部屋で」と移動して棚の上に先代を置くと、おずおずと覗き込み「べっど?」と呟いた。
「下処理れすか?」
「加熱・押し出し」
なんてこと言うんだ!!
当然、全年齢対象だよ。
「横になったら踏ん張りやすい、でしょ?」
「はい、やります!」
「今度はどうかな?」
「ん~んっあ、ぅまく、ぃ、いけそうれす」
「あ。ほんとだ、なんかちょっと出てきた」
「み、見ちゃらめ……らめれす……ぅあ!」
出 て き た ?!
「て、てっ」
「え、て?」
「て、てを……おててを」
「こう? これでいい?」
ぎゅっと手を握ると、安心したように目を細めて、大きく頷きながらギューッと眉間に力を込めた。最後の力を振り絞り、最後の数ミリを絞り出す!!!
と。
できたてホッカホカのなると。
ポテンと、お腹の上に倒れた。
「なると、きれいにできたよ?」
汗ばんだ表情で、コクリと1度頷いた。
「その、おへそ。元に戻るの?」
「おへそ、おへそ、洗わないと」
「洗う? あっ、洗って乾燥?」
使い終わった調理器具は、清潔にする。
そこは、なるみ2026も同じだろう。
違うのはサイズ。子供くらい大きい。キッチンシンクでジャブジャブ洗うような大きさじゃないから、洗浄するとしたら、この家の――
「風呂場?」
「おふろ!」
なんてこった。
なると製造機と入浴する日が来るとは。
パンチラで逃げてる場合じゃなかった。
服もベタベタだなぁ。
子供服売り場って、どこにあるんだろ?
なると作りに洗い替えが必要とは考えもしなかった。
まだまだ準備不足、前途多難だ……。
「おぉおお?! おいしいれす~☆」
なるとだもんなぁ。
食べるんだよなぁ。
「このラーメンって、どこいくの?」
「燃料になるのれす」
「そっか。残りかすとか出ないの?」
「恥ずかしいのれナイショなのれす」
袋めんだけどなぁ。
ん?
「出るのかぁ」
「お尻から、こっそり、おトイレに」
「それじゃ全人類が恥ずかしがるよ」




