なると製造機 なるみ2026
玄関チャイムの後、「お届けものれ~す!」の声。先週、鳴海工機製作所に問い合わせたら、AI学習をかねた商品モニターを打診された。このタイミングで届いたのなら、待望の新型個人向けなると製造器だろう!
『味気ない、なるとレス袋めんからの解放!!』
「なると製造機がうかがいました」
急いで玄関に向かい、扉を開く。
ちいさな、女の子が立っていた。
……小学生くらい?
「あの……荷物は?」
「ためしてないれす」
「え?」
「まだ、ためしてないのれす」
「ぇ……え?」
「ひ、ひっぐ」
「え、なに?」
「 ぅ わ あ ぁ ぁ あ んっ!! 」
なると製造器が配達予定日に届かず、茫然自失の僕。
おいおいと涙をこぼして玄関先で泣きじゃくる子供。
御 近 所 の 白 い 目 。
「も~お荷物って言われたぁ~!」
「わ、わわ、ちょっとタンマッ!」
「も~おわた、すてられたれす!」
「とっ、とりあえず! 入って!」
玄関先に這いつくばったまま、小一時間。泣くというより「っえぐ、ぅげぇ」と胃が引っ繰り返ったようにえずきだして、それすら声にならなくなった。
用意してきた水を飲ませる。
少しだけ落ち着いたらしい。
「大丈夫かな?」
「はぃ、れすぅ」
「僕の名前は、大鈴みなと。お嬢さんは?」
少女は「おおすず、みなとさま」と復唱しながら、配送伝票らしき紙片を見て、大きく頷いた。どうも配達に来た先は合っていて、なにか会話に行き違いがあっただけらしい。さぁ新型なると製造器の性能や如何に?!
「ぅ、ひっぐ。人型なると製造機、なるみ2026試作型れす。産業廃棄物処理は嫌れす、恐い、最後のチャンスなのれす……ご迷惑はおかけません、1回おためしてください、お勉強も、たくさんがんばります」
……は?
「う~ん」
壊れてしまった、先代なると製造器と見比べてみる。
材料投入口、手回しハンドル、なるとの絞り出し口。
これを蒸したら、なるとができた。
白物家電というよりも調理器具だったが、パーソナルユースの『なると製造器』としては十分すぎる性能。しかし、修理を依頼するたびに販売に苦戦中とは聞いていて、きちんと手入れしながら、だましだまし使い続けてきたのだが――
とうとう、先週末。
ハンドルの回転に抵抗があったのでグッと力を込めると、見慣れぬ歯車がコロンと転がり落ちて真っ二つに割れた。それを見た時、嫌な予感はあった。
生産終了、パーツが無かった。
しかし。
なると製造器のトップブランドは諦めていなかったーっ!!
社運を賭けた起死回生のプロジェクト。最近のテクノロジーと学習機能AI搭載によって、味や食感、様々なレシピを覚え進化する、『自分好みになると製造機』と聞いた時は『ダジャレか?!』と思ったけれど。
既に試作機がある。
モニターを募集中。
当然、快諾したが。
「なるみちゃんが、なるとをつくるの?」
「は~い!」
なにがどうして……ロボットに変形したんだ?
人型になったとは、聞いてない。
こちらも「どんな形状?」とは、聞いてない。
お互い様、か。
「僕、なるとを袋めんに入れて食べたかっただけなんだけど」
「ご迷惑は、おかけません。飲まず食わずで働きますれす!」
「いや、そういうわけには」
「ゎたし太陽光発電なのれ」
「あぁ、そういう意味で?」
知りうる限り、なると製造器メーカーは鳴海工機のみ。食材としては一般的でも自家製なるとの需要は低すぎるし、競合他社があっても結局なるとができるだけ、単一機能すぎたことも一因だろう。
なるみ2026は、違う。
解決方法を搭載している。
AIによる、学習機能だ。
まずは基本、なると作り。
冷蔵庫から魚を取り出す。
「なるとの作り方は知ってるんだよね?」
「もちろんれす!」
「あ~よかったぁ」
「魚肉のすり身をのばし、色をつけた一枚を巻きこみ、すまきで巻いて蒸します。小口切りの断面が渦巻模様となるのが特徴です(出展:好事苑)」
間違ってないけど。
本当に……大丈夫?
「その機械的な返答、怖いわ」
先代なると製造器を箱にしまう姿を、なるみ2026は悲しい瞳で見詰めていて「おつかれさまれす」と囁きながら、そっと古ぼけた紙箱に触れた。
気のせいか、瞳も潤んでいるように見える。
機械的な反応、人間的な振る舞い。
見た目が子どもで、ふり幅ひどい。
精神的にも不安定すぎる気がする。
モニターを募集中、と鳴海工機は言ってた。
何度も何度も突っ返されたとしか思えない。
「じゃとりあえず、ここで」
「わ~っかりまっした~!」
接地面積は同じくらい。
スペース的に問題無い。
ただ、高さ方向が――
机に立って生魚を持った小学生に、見下ろされる格好になった。
「前のより、かなり……場所を喰うね?」
「すみませんすみません、すみませんっ」
「や、平服しろって意味じゃないよ?!」
僕は試作型なるみ2026と二人三脚で、なると製造機を立派な製品に育てあげ、世界へ送り出す第一歩を踏み出したッ!!
いや、作ったのは僕じゃなくて。
鳴海工機製作所なんだけど――




