第一話 きっかけは・・・
そこはこの世界の最果ての地、高濃度の魔素が天を覆い辺りを照らすのは激しい戦いによる戦火のみである。地獄にみゆるような地に悠々と聳え立つ魔王城にて、長年にわたる人類と魔族の決戦に終止符が打たれようとしていた。天使より祝福されし勇者と、悪魔に導かれし魔王との最後の決戦である。
「魔王よ、これで終わりにしよう。この悲劇を」
「終わりにしようぞ、星の勇者『アサヒコ ホシサカ』よ!」・・・・・・
「・・ぅん、・キ君、フウキ君。おはようございます。私の子守唄はよく眠れるようで何です。」
(あれ、ここは・・・、頭がいたい)
気がつくと、神学の授業中、恐ろしいほどの笑顔を貼り付けたオリーブ教授と目が合っていた。
「い、いえ、僕は頭の中で神話に入ってました。」
本当はそれらしい夢を見ていただけなのであるが・・
恐る恐る顔をあげると、さらに笑顔が深まり、恐ろしい雰囲気を隠そうともせず、全力で放出しながら教授がこちらの方へ歩いてきていた。
「それは結構なことです、君の成績はこの伝統あるディーリスの中でも神話に残ること間違いなしですねぇ。さて、神話級の頭を持つフウキ君、先ほどの授業の続きである魔王との決戦から話してください。」
「え、えっと、わかりました。勇者苦戦しながらも魔王を討ち果たしました。ですが、リアル魔王とでも呼ぶべき存在が登場し、さらにそこへ絶世の美少女が・・」
知らないんだからしょうがない!と夢内容を語っていたのだが、クラス空気が加速度的に悪くなるではないか・・オリーブ教授など先ほどまでの笑顔が嘘のように真顔でこちらを見ている。人は感情がひっくり返ると真顔に落ち着くらしい。
何を言おうか言いあぐねていると、
「はい、先生。私が答えます。」
振り返ると、呆れた目でこちらを見つつも「しょうがないわね!」と嬉しそうな様子で手を挙げているアリシアの姿が目に入った。
「お願いしますよ、アリシアさん。その男の神話を打ち崩してあげてください。」
「それでは、星の勇者は魔王と対峙し、長く激しい戦いの末に勝利を収めます。それ以降、魔族はこの世界から姿を消してしまいました。人族はこの世界を天使より与えられ、今では千年の月日が流れたとされています。」
夢の内容と全然違うじゃないか。でも、そんな感じだとは思っていたとばかりに、勝ち誇ったような顔でこちらを見ているアリシアに「グッジョブ」と親指を立てておいた。
「その通りです。ちなみに、この一連の戦いを『神話の決戦』と呼びますので試験などではそう呼称してください。では、このあたりで終わりましょうか。」
相変わらず、嫌味な先生である。ちょっと寝ちまうくらい・・第一、あの授業でまともに受けてるやつの方が少ないだろうに・・・
「フウキ、お前また寝てやっがったのか?いい加減大丈夫なのかよ」
肩をに手をかけ、心配してるんだか楽しんでるんだかの口調で、この学園でただ二人しかいない友達の一人である、ラークに声をかけられる。
「だってさ、オリーブ教授は神学の書物を読み上げるだけじゃんか。それに嫌味ったらしいんだよあの人」
「それは、あなたがちゃんと授業を受けていないからでしょ!でも、神話に関しては私の方が優れているようね」
今の会話が聞こえていたのか、自慢の金髪をたなびかせながら歩いてきて張り合うようにアリシアは言う。だいたい、クラスで一番それどころか、神話に残るほど成績が悪いと言われている俺と、この学園で一番成績がいいアリシアとじゃあ張り合うも何もないと言うのに。
「神話に関しても何も、俺じゃ、アリシアには魔術の実技も筆記も何も勝てないだろ」
呆れた声でそう返事すると、アリシアは目を細め、いい加減聞き飽きたというような表情をする。
「あなたが実力を隠していることなんてお見通しよ!まぁいいわ、でも卒業できるくらいには調節しておくのよ」
それだけ言い終わると、クラスの前で待っていた女子たちと合流しさっさと行ってしまった。
いったいあいつには俺がどんだけえげつないやつに見えているんだか。
「なんだかんだ、あいつもお前のことが心配なんだよ。ま、俺も同じ田舎貴族のよしみで言わせてもらうと、お前でももう少し頑張れば卒業くらいはできると思うぜ!」
こいつは貶しているのか、励ましているのか。はぁ、とため息をつき、励まさんとばかりに、背中を叩いてくるラークを押し除けつつ鞄をとる。
「わかったよ、もう少し努力するわ。あ、あとさお前、魔族って実はいいやつだったって言ったら信じる?」
「はぁ?、何言ってんだよ、またあの夢の続きか?本当の神話上では、紫の瞳孔を光らせて人族を殺し回ってるような奴らで、とても知性なんかなかったらしいぜ。お前テスト大丈夫かよ。」
「へぇ、やっぱそうだよなぁ。」
やはりあの夢は俺の妄想らしい。
「テストはなんとかするわ。ありがと、じゃあな」
手を振るラークを後目に、特段急いでいるわけではないがさっさと学園を出ることにした。
考えてみると、故郷の田舎からこの王都にやってきて三年と少し、もう半年もすればこの学園を去り、死んだ親父の後を継ぐことになる。(まぁもちろん、卒業できればの話ではあるのだが)俺の人生ってもう決まってるんだなと思うと、やる気もあまり起きない。まぁ、こんなことを言う俺が変なのであろうから、全て勉強したくない言い訳なのかもしれないが。
学園から寮までは、大通りを通ればすぐなのだが一人になりたい気分の時には決まって裏道を通る。学園の裏に流れるこの都市最大の川にそって歩く、いつもは通り過ぎるものなんかにも目を向けていると案外楽しいものだ。
・・・・・・
夢中で歩いていると、あたりはいつの間にか暗くなり大通りでは地面や壁に植えられている光の刻印石が光り始めていた。そろそろ、寮に戻ったほうがいいだろうか。そんなふうに考えていると、柄の悪そうな男4人組に俺と同い年か年下に見える女の子囲まれて歩いているのが目に入った。
(あれって、絡まれている感じ?警備兵呼んできほうが・・)などと考えていると
「ディーリス学園ならこっちの道だぜぇ、嬢ちゃん」
一番大柄な男が路地を指差し、疑うことを知らないのか彼女も平然とついて行った。
(あの子はうちの学園の後輩か?てか、明らかに怪しい奴らについていくんじゃねぇよ)
そんなことを考えつつも、連れ込まれた路地の中に駆け込んだ。
「行き止まりなんだけど。ねぇ、私はディーリス学園って言ったのよ?」
路地の中では、まだ状況が理解できていないのかそれともよほど肝が据わっているのか、女の子の冷静な声が聞こえてきた。物陰に隠れつつ、よく見てみると男の方は4、5人でゲラゲラと馬鹿にしたような笑い声をあげていた。
「さぁて、どこにあったか。あっちだったか、こっちだったか。もしかしたら、あの雲の中とかもなぁ。まぁ、もう関係ねぇことだけどよ!」
「こいつぁ、上物だぜ兄貴。金目のもんもたっぷりいただいたあと、よしよししてもらいやしょうぜ」
「バカ言ってねぇで、さっさと大人しくさせやがれ」
『兄貴』に命令され、取り巻きの男たちが女の子を取り囲んだ。
(これはやるしかないのか・・、いや、最悪あの子だけでも逃がせるかも・・)
鞄の中から学園支給の杖を取り出し、拘束術式の形に杖を動かす。完成まじかのところで、女の子の様子が少し変わった。男たちに囲まれた恐怖ゆえなのか、それとも・・
「これってさ、人族の中では常識的なこと・・じゃあ、ないわよね?」
「訳のわからねぇこと言ってねぇで、すぐ終わるからよぉ」
男の手が彼女の腕を掴んだ瞬間、俺の目には彼女の体が一瞬、震えたように見えた。
俺は無意識の間に飛び出していた、自分の腰に巻いてあったベルトを腕を掴んでいる男の方へ放り投げ、用意していた魔術を使う。
「フェッセルン!(拘束)」
投げられたベルトは生き物のようにうねり、男を拘束する。その隙に女の子を自分の後ろに引き寄せ、彼女に向かって叫んだ。
「お前は隙をついて逃げろ」
「待ってよ、あなたは・・」
「いいから、早く」
そう言って、彼女を出口の方へ押しやった。
「ってて、何しあがるこのガキが」
拘束された男は、芋虫のような体勢から怒りの声を上げた。
「騒ぐな!魔術使いとはいえ、相手は一人。数で抑えて黙らせろ」
そう怒号が飛ぶと、取り囲んでいた男たちも一斉にかかってきた。
(この人数差じゃ拘束しきれねぇな、元素魔術を俺が使うと暴発するが、今なら利用できるか・・)
杖を動かそうとした時、逃げたはずの彼女がスッと前に出ていくのを感じた。止めようと手を伸ばすが、彼女の真顔とも笑顔とも違う、余裕のある顔に手がすくんだ。
その夜は空一面に雲がかかり、狭い路地の中では男たちが持っているランタンなしじゃ全く何も見えないそんな夜であった。
フウキの前を歩く彼女に突如として一筋の月光が当たる。月の光の中で、長くそして綺麗なミッドナイトブルーの髪が鋭く輝き、彼女のロイヤルパープルの瞳が鋭く光っていた。鋭く尖った瞳孔で狙った相手を見つめる姿は美しく、そして恐ろしく見えた。
「もうわかったわ、ありがとう」
冷たい声が響くと、突如男たちは何か見えないもので押しつぶされたように地面に倒れ込んだ。
(魔術か?・・でも詠唱がなかったが、いや、それより・・)
「もしかして、神話上の魔族って実在したりする?」
「あら、自己紹介しなきゃね。初めまして、星の勇者の子孫 フウキ・ホシサカ。私の名前は、セナ。ご察しの通りの魔族よ。つでに魔王の娘でもあるらしいわ。」
にっこりと笑う彼女の顔を見ながら、思う・・
「これは夢なのか?神話か・・・・」




