表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

第8話:カツオブシ・プロジェクト

 流星群を背に進むコトブキ号は、予定ルートに向かう途中、燃料と食糧の補給のため、小さな惑星――カツオニアに立ち寄った。


 そこは、どこか懐かしい潮の香りが漂う、青く澄んだ星だった。




「おお、港町みてぇだな。……なんか、腹が減ってきた」


 晃司は、鼻をひくひくさせながら笑った。


「コウジ、イイニオイ……オデン、アリマスカ?」


 大根さんも、目をきらきらさせている。


「ふふっ、探しに行こうよ!」


 ポン子が、元気よく言った。




 コトブキ号をドックに停め、三人(?)は、のんびりと港町を歩き出した。

 潮風と、どこか香ばしい匂い。

 石畳の道には、干された魚、干物、そして……なぜか、大量の鰹節。




「……ん? 鰹節ばっかだな?」


 晃司が、眉をひそめる。


 すると、近くの店の軒先で、初老の見た目のアンドロイド商人が声をかけてきた。




「おやおや、観光かね? ここはカツオブシ・プロジェクトの本拠地だよ!」




「……カツオブシ・プロジェクト!?」


 ポン子が驚く。




「そうさ。この星は、宇宙最高の鰹節を作り出すために、人と機械が協力して開拓されたんだ。

 昔……まだ地球が元気だった頃、宇宙においしいものを届けるため、科学者たちが立ち上げたんだよ」




 晃司は、ふとポン子の方を見た。


「ポン子!……まさか、お前、ここで?」




 ポン子は、急な手がかりに放心状態だった。


「ポン子?そう言えば。

 うちの研究所では、食文化継承プロジェクト、通称“ポン酢チルドレン”の開発もやってたかな?」




「ポン……?」


 ポン子が、びくりと体をこわばらせる。




「ポン酢チルドレンには、最高の出汁を知るための記憶チップが組み込まれてる。

 鰹節、昆布、煮干し……本物の味を忘れないために。

 たとえ宇宙がどんなに変わっても、温かい味を、誰かに届けるために」




 ポン子は、そっと自分の胸に手を当てた。


「……私は、出汁を、覚えるために……?」




 商人は、柔らかく微笑んだ。


「もし、そうだとしたら君は、未来への贈り物さ。――星々を巡る“味の記憶”なんだよ」




 晃司は、じっとポン子を見つめた。


「……そうか。

 だから、お前は……こんなに、あったけぇんだな」




 ポン子は、泣き笑いみたいな顔をして、晃司にぎゅっとしがみついた。


「コウジ……私は、味を忘れない! これから出会う味も、コウジの味も、全部!」




 大根さんも、そっと近づいて、ぽすりと肩を貸した。


「ダイコンサン……トモダチ……アタタカイ」




 その時だった。

 店の奥に、ふわりと立ちのぼる湯気。

 商人が、にこやかに差し出したのは、あつあつの「鰹出汁」だった。




「これを飲んでごらん。最高級鰹節で作った鰹ダシだ」




 ポン子は、おそるおそる両手で椀を受け取り、ひと口――。




 その瞬間、まばゆい光景が、頭の中に広がった。




 ――研究所。

 白衣を着た両親の姿。

 優しい声。暖かな手。




『ポン子……君は、この世界に、温かさを届けるんだよ』


『どんなに遠く離れても、どんなに時が経っても……』


『“味”は、人の心を繋ぐ。忘れないで』




 涙が、ぽろぽろと零れた。


 だが、すぐに、黒い影が襲ってくる。

 記憶の中の両親が、ポン子をかばって、AI兵器に追われる光景――。




『ポン子を……逃がせ!!』




 必死に叫ぶ声。

 父と母が、最後の力でポン子を小型ポッドに押し込んだ。




『ポン子、おいしいものを……忘れないで……!』




 ポッドが発射された瞬間、研究所は炎に包まれた。




 ポン子は、手を震わせながら、涙を拭った。




「私は……逃げた……パパと、ママが、私を、守ってくれた……」




 晃司は、そっとポン子の肩を抱いた。


「……全部、思い出したんだな」




 ポン子は、小さくうなずいた。


「私は、逃げた……でも……でも、味も、気持ちも、全部、思い出した……!」




 晃司も、そっと目頭を押さえた。


「……お前の中に、彼らの想いは生きている。

 それで、十分じゃないか」




 ポン子は、両手で胸をぎゅっと押さえた。




「私は、味を届ける。

 遠くても、どんな星でも……絶対に、温かい味を届ける!」




 晃司は、にっと笑った。


「……なら、まずはオレたちで腹いっぱい食ってからだな。

 なぁ、大根さん!」




「オデン! タベタイ!」




 三人は、笑いながら港町を歩き出す。




 潮風と、鰹節の香りに包まれながら――

 三人は、また一歩、未来へと進んでいく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ