第7話:星のかけらを、君に
宇宙を漂うコトブキ号の窓辺で、晃司は外をボーっと見ていた。
隣では、ポン子が毛布を掛けて、ちょこんと座っている。
さらに、テーブルの横には、大根さんが湯気をふわりとまとっていた。
「……コウジ、寒くない?」
「いや、大丈夫だ。ありがとうな、ポン子」
「ダイジョウブ……オデン……アタタカイ」
大根さんも、ぴょこりと頷いた。
晃司は、少しだけ笑ったあと、ふと、遠くを見つめた。
「……今、……澄子のことを思い出してたんだ」
「スミコ……?」
ポン子が、目を丸くする。
「コウジ、ニンゲンノ、ナカマ」
晃司は、小さく頷いた。
「ああ。……澄子は、俺が地球にいた頃、いちばん大切だった人だ」
夜空を見上げながら、晃司は静かに語り出す。
――あの日、澄子と二人で、流星群を見ようって約束してたこと。
――だけど、仕事の都合で、約束を果たせなかったこと。
――そして、澄子は「しょうがない」「大丈夫」と言ってくれたが、悲しそうな表情をしていたこと。
「……約束を破ったのに、澄子は最後まで俺を責めなかった。
『きっと今も、おでん、なんか探して』って、笑ってるさ」
晃司の声は、少しだけ震えていた。
「だから今でも、流星群を見ると、胸が、少しだけ痛ぇんだ」
ポン子は、黙って晃司の手を握った。
「コウジ……ポン子、流星群探します!」
「……は?」
晃司は、目を丸くする。
「イマスグ、ショウワクセイタイ、ミツケル! リュウセイグン、トドケル!」
大根さんまで、ぐぐっと身を乗り出した。
晃司は、吹き出して、頭をかいた。
「……まったく、お前らなぁ。……でも、ありがとな」
数時間後――。
コトブキ号の進路が微妙に修正され、小惑星が多い星をかすめる航路へ。
エンジンが静かに脈動し、宇宙に、静かな奇跡が起きた。
きら、きらきら……
夜空に、細く、優しい光が流れる。
それは、とても美しかった。
「……きれい……!」
「キラキラ……!」
ポン子と大根さんが、小さな声をあげた。
晃司は、ただ静かに、星たちを見つめていた。
その胸の中には、澄子の笑顔が、ふわりとよみがえっていた。
「なあ、澄子見てるか?」
窓の向こうに、そっとつぶやく。
「お前と見るはずだった流星群、今、ここで見てるよ。……大切な仲間たちと、一緒にな」
大根さんも、ほんのり光りながら、そっと言った。
「ミツケタ、オデン……アイ……アタタカイ」
晃司は、にっこり笑った。
「……そうだな。
見つけて見せるさ、澄子の味も、ポン子の記憶も」
コトブキ号は、流れる星々の中を、静かに進んでいく。
夜空には、いくつもの願いが流れていた。