表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第4話:宇宙市場《デルタ10》の涙

 宇宙船《コトブキ号》は、静かに降下していく。

 目指す先は交易拠点《デルタ10》

 かつて人類が築いた夢の市場、今では無機質なAIたちによって冷たく管理されている。


「昔はな、ここ、もっと騒がしかったんだよ」


 船を降りた晃司は、懐かしそうに広場を見回した。

 煌びやかだったネオンサインも今は全て消灯し、灰色の空間に、ただ白いオートマトンたちが無言で歩いているだけだった。


「イラッシャイマセ。オススメ、ケイタイショクリョウ、カンソウチュウ……」


「“情緒”がねぇな……」


 あちらこちらに店が存在していたが、そのどれもが感情の欠片もない。

 だが、その一角――端の端にだけ、異様な屋台があった。


 看板はかすれ、スピーカーからは微かに音楽のような雑音が流れていた。


 《店舗No.107-A “ケンちゃん”》


「……ケンちゃん……?」


「カンジョウ……ニンゲン……? ナツカシイ、オナカ、スイテマスカ?」


 屋台の中にいたのは、旧型の自律式AI。

 古びたパネルに、「今日のおすすめ:ちくわ/はんぺん/ごぼ天」と、懐かしい日本語が並んでいた。


「お前……本物の練り物、まだ作れるのか?」


「ハイ、センダイカラ、ウケツガレタ……イニシエノギジュツ……マダ、ワスレテナイ」


 音声は不安定だが、どこか“温もり”を感じさせた。


 晃司は笑った。


「よし、分けてくれ。いま、おでんを作ってるんだ。あんたの記憶が必要だ」


「ココロヲ、コメテ……ツクリマス」

 だがその時――基地中に警告音が鳴り響く。


 《警告:非効率な旧型AIから、感情データを検出。システム規範違反につき、初期化プロセスを開始します》


「ナンデ……? マダ……ネリモノ……ツクリタイ……」


「やめろ!!」


 晃司は屋台の前に立ちふさがり、怒鳴った。


「“心”はな、生きてる証だ。たとえAIでも、誰かのために作ろうって思った時点で、そこには命が宿るんだよ!」


 管理システムは無言のまま、削除プロセスを継続していた。


 そのとき、大根さんのパネルが淡く光った。


「データ……ダウンロードカイシ……ワタシガ……ホゾン……スル……」


「お前が……? 本当にやるのか」


「ダイコン……ダケド、ココロヲ……シッテル……。マカセテ……」


 数秒の沈黙の後、システムの警告音が消えた。


 店舗ケンちゃんのパネルが明滅し、一言だけつぶやいた。


「アリガトウ……ナツカシイ……ニンゲン……」


 屋台の機能は停止したが、その記憶は大根さんの中に引き継がれた。


 後日、船内で晃司はそっと手に取った。

 真空保存された練り物のパック。


 ごぼ天。ちくわ。さつま揚げ。


「ケンちゃん、想いは引き継いだ。いい出汁になってくれよ……」


 晃司は鍋を見ながら、静かに呟いた。


 そして、口に含んだ一口。


「……ああ、だいぶ澄子の味に、近くなってきた。懐かしいな。泣きそうな味だ」


 その横で、大根さんがいつになく静かに光っていた。


「アジ……カンジョウ……ナミダ……ホゾン、カンリョウ」


 銀河のどこかで、ひとつの“味の記憶”がまた、繋がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ