第3話:人工衛星屋台・味一番!
ナゴミ・ステーションを目指す、コトブキ号のレーダーが奇妙な電波を拾った。
「通信?……いや、これは……“営業中”の信号か?」
晃司が眉をひそめる。
「カクニン……コレハ、フルイジンコウエイセイ……トウロク・アジイチバン」
「味一番? 宇宙の真ん中で……?」
目的地への航行中、ちょっとした補給も兼ねて、二人は誘導信号の先へ向かう。
そこに浮かんでいたのは――まさかの、木造風宇宙屋台。
「うそだろ……宇宙で“屋台”ってなんだよ……!」
のれんには、達筆で《味一番》と書かれていた。なぜか湯気まで漂ってくる演出付き。
「ラッシャイ……」
屋台の奥から現れたのは、ひょろっとしたおじいさん。着流しに割烹着を着た、不思議な風貌。
「この星域じゃ、もう誰も味なんて知らんが……あんたら、分かるクチかい?」
「……少しはな。いや、そっちが試してみるか?」
晃司はにやりと笑う。船の調理ユニットから、そっと“大根”を取り出した。
「うちの看板メニューは“銀河うどん”なんだが……それは、何だ?」
「おでんさ。思い出の味を探してる最中だ」
「ほほう……いいねぇ。じゃあ一緒に作ってみようか、宇宙味噌と、おでんのコラボってやつをさ」
即席で始まった、宇宙屋台とのコラボ企画。
屋台の隅には、「コラボ限定メニュー」の看板が出されていく。
《宇宙うどん×おでんスープ》
《ゼログラビティ大根ステーキ》
《スペース味噌おでん玉》
「大根さん、様子は?」
「ダシ……シミコミカイシ……トクシュナアミノサンハッケン」
「宇宙味噌……やるじゃねえか。しっかり出汁を受け止めやがる」
二人は黙々と鍋をかき混ぜ、味を確かめ合う。
やがて、そこに1機の宇宙船がふらりと接近する。
「すまん、何やらノスタルジックな匂いがしてな……入っても?」
現れたのは、老年の女性パイロット。彼女もまた、味覚保持者だった。
「……この香り、懐かしい……あの頃、まだ夫が生きてて、一緒に食べた……“関東煮”ってやつかしら」
彼女の目に、うっすらと涙が浮かぶ。
「ふふ……お代はいい。代わりに、思い出話を一つだけ、置いていってくれ」
屋台主がそう言えば、晃司も頷く。
「ここはな、味だけじゃない。記憶も、味わう場所だ」
その夜、銀河の片隅に、ぽつんと光る小さな屋台。
湯気と笑い声が漂い、宇宙で忘れかけた“あたたかさ”が、確かにそこにあった。
「……たまには、こういう寄り道もいいな」
「コウジノメ……ヒカッテル……カンジョウ、キロクホゾン……」
「うるせえよ、オンボロ大根」
笑いながら、晃司は再びコトブキ号へと乗り込む。
「さ、旅の続きだ。澄子の味を、見つけに行かないとな」
「ジュンビカンリョウ……」
コトブキ号、発進。