表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

第3話:人工衛星屋台・味一番!

 ナゴミ・ステーションを目指す、コトブキ号のレーダーが奇妙な電波を拾った。


「通信?……いや、これは……“営業中”の信号か?」


 晃司が眉をひそめる。


「カクニン……コレハ、フルイジンコウエイセイ……トウロク・アジイチバン」


「味一番? 宇宙の真ん中で……?」


 目的地への航行中、ちょっとした補給も兼ねて、二人は誘導信号の先へ向かう。


 そこに浮かんでいたのは――まさかの、木造風宇宙屋台。


「うそだろ……宇宙で“屋台”ってなんだよ……!」


 のれんには、達筆で《味一番》と書かれていた。なぜか湯気まで漂ってくる演出付き。


「ラッシャイ……」


 屋台の奥から現れたのは、ひょろっとしたおじいさん。着流しに割烹着を着た、不思議な風貌。


「この星域じゃ、もう誰も味なんて知らんが……あんたら、分かるクチかい?」


「……少しはな。いや、そっちが試してみるか?」


 晃司はにやりと笑う。船の調理ユニットから、そっと“大根”を取り出した。


「うちの看板メニューは“銀河うどん”なんだが……それは、何だ?」


「おでんさ。思い出の味を探してる最中だ」


「ほほう……いいねぇ。じゃあ一緒に作ってみようか、宇宙味噌と、おでんのコラボってやつをさ」


 即席で始まった、宇宙屋台とのコラボ企画。

 屋台の隅には、「コラボ限定メニュー」の看板が出されていく。


 《宇宙うどん×おでんスープ》

 《ゼログラビティ大根ステーキ》

 《スペース味噌おでん玉》


「大根さん、様子は?」


「ダシ……シミコミカイシ……トクシュナアミノサンハッケン」


「宇宙味噌……やるじゃねえか。しっかり出汁を受け止めやがる」


 二人は黙々と鍋をかき混ぜ、味を確かめ合う。

 やがて、そこに1機の宇宙船がふらりと接近する。


「すまん、何やらノスタルジックな匂いがしてな……入っても?」


 現れたのは、老年の女性パイロット。彼女もまた、味覚保持者だった。


「……この香り、懐かしい……あの頃、まだ夫が生きてて、一緒に食べた……“関東煮”ってやつかしら」


 彼女の目に、うっすらと涙が浮かぶ。


「ふふ……お代はいい。代わりに、思い出話を一つだけ、置いていってくれ」


 屋台主がそう言えば、晃司も頷く。


「ここはな、味だけじゃない。記憶も、味わう場所だ」


 その夜、銀河の片隅に、ぽつんと光る小さな屋台。

 湯気と笑い声が漂い、宇宙で忘れかけた“あたたかさ”が、確かにそこにあった。


「……たまには、こういう寄り道もいいな」


「コウジノメ……ヒカッテル……カンジョウ、キロクホゾン……」


「うるせえよ、オンボロ大根」


 笑いながら、晃司は再びコトブキ号へと乗り込む。


「さ、旅の続きだ。澄子の味を、見つけに行かないとな」


「ジュンビカンリョウ……」


 コトブキ号、発進。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ