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第2話:大根さん起動 !

「……で、なんでうちの船にいるんだ?」


 じいさん・篠原晃司は、台所の床にしゃがみ込み、目の前に鎮座するロボット“大根さん”を見つめた。


「ニコミ……ガ……タリナイ……タスケテ……」


「いや知らんがな」


 大根さん――正式名称《D.K-03》。AIと味覚再現ユニットを搭載した、旧式の家庭用支援ロボット。開発者のおふざけで、おでんしか作れない一芸特化型。


「この船、前に食材保管庫として知人に貸したことあるけど……まさか置いていきやがったのか?……記憶が曖昧だ」


 床をバンと叩いて晃司が笑う。


「まあいい。お前にも役割があるってこったな。よろしく頼むぜ、大根さん」


「……ダイコン……サン……ト、ヨンデ……クダサイ……」


「いや、そもそもお前は大根“そのもの”じゃないだろ」


「アイ……デンティティ……」


 妙にセンチメンタルな反応を見せる大根さん。どこかズレているが、味の再現に関しては超一流のようだ。


「この宇宙船にはな、俺の人生の全てが詰まってる。思い出と後悔と、そして――おでん」


 そう語る晃司に、大根さんが光る目を向けた。


「オデン、ヲ……トリモドス」


「そうだ。取り戻すんだ、あの日の味を。澄子と食べた、あの“しみしみ”をよぉ!」


 



 目的地は、かつて人類が築いた最後の“味覚保護区”――ナゴミ・ステーション。

 感情を抑える法律が世界を覆う中、そこだけは“文化保存”の名のもと、例外として味覚と感情が保管されている。


 しかし道中、問題が発生した。


「……燃料が足りねぇな。寄り道するか、大根さん」


「フユウシマ……キロク……センイチ……ショクセンジョウ」


「そうそう。無重力工場跡地だな。昔は色々な成分を合成してたんだ。薬の影響と過疎化で、今は無人島みたいなもんだけど……もしかしたら、食材が拾えるかもしれん」


 《コトブキ号》は微調整航行を開始。


 その時、アラートが鳴り響く。

『重力装置異常』エンジンがごぼごぼと音を立て、機体が傾く。


「……いや、傾くなって! ちゃぶ台が……!」


 その瞬間、ガッシャーン!と鍋が天井に落ち、煮物汁が重力のない船内に浮かび上がる。プカプカと漂う大根とこんにゃく。


「――おでんシャワーかよ!!」


「アジツケ……カイシ……」


 大根さんの目が赤く光ると、瞬間的にミスト状のダシが噴出。宇宙船内はまるで“おでんの湯けむり温泉”。


「やめろ!船内が“いい匂いの地獄”になってる!」


 騒動の末、無重力工場跡地に到着。

 給油中、探索に出る。食堂に向かうと、棚に残された人工カツオ節、乾燥昆布、真空パックの卵。


「……宝の山じゃねぇか」


 晃司は1個ずつ、丁寧に拾い上げる。その目は輝いていた。

 やがて、古びた厨房の奥で彼は見つけた。


 “あじのもと”


 それは、かつて開発された“味の記憶装置”。

 食べた人間の感情を記録し、その“心の味”を再現するという、狂気にも近い発明。


「澄子の味が、ここにあるかもしれねぇ……!」


 震える手で、晃司は装置を抱き上げた。


 そのとき――


 警報が鳴り響く。


 《警告:感情再現デバイスの不正持ち出しを検知。UGEC艦隊を要請中》


「……はは、バレちまったか」


「センソウ……?」


「いや、戦う気はねぇ。けどな、大根さん――俺たち、逃げるぞ。鍋の底までな!」


「シミ……シミ……カイシ」


 急いで船に戻り、再び宇宙へ。

 鍋の中に少しずつ、食材と記憶が増えていく。

 一つずつ、一歩ずつ、味を取り戻す旅。


 ――そして晃司は呟く。


「……お前がいると、ちょっと賑やかで、悪くねぇな」


「コレ……ガ……シンライ……?」


「そうだよ、大根さん。人はな、心の奥に“あったかい”を持ってるもんなんだ」


 その言葉に、大根さんがわずかに温度を上げる。


 ぴぴ、と静かに鳴ったタイマー。


 しみしみの大根が、今、仕上がった。

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