エピローグ
――数年後。
ナゴミ・ステーションの片隅、そこに、ひときわ柔らかな灯りを放つ一軒の小さなおでん屋があった。
店の名は、《澄子》。
白木のカウンターに、小さな暖簾。客たちが、ほっとひと息つけるその空間に、香ばしい出汁の香りが漂っていた。
「いらっしゃいませ。今夜は、こんにゃく、ちくわ、大根、しみしみですよ」
笑顔で迎えるのは、ポン子だった。
彼女は澄子のレシピをもとに、おでんを通して“ぬくもり”を伝える店を開いていた。
客たちが笑い、会話がはずむ。
ふと、カラン、と扉の音が鳴った。
入ってきたのは、年季の入った宇宙服姿の老人――晃司だった。
「……お、ナゴミ・ステーションで一番うまいおでん屋があると、聞いて来たが空いてるか?」
その声に、ポン子は涙を流しながら、ぱっと笑顔を広げた。
「コウジ!」
「久しぶりだな、ポン子」
晃司はカウンターに腰を下ろし、ポン子は、大根さんと視線を交わす。
「大根さんも、久しぶり!」
「……ダイコンサン、カオ、ワスレナイ……」
「もう会えないかと思っていた」
「俺は、約束は守る方だぞ」
ポン子は湯気の向こうで、お玉をゆっくり鍋に沈めた。
「今日は、ちょうど澄子さんの“黄金出汁スペシャル”、作ってあるよ」
「……そうか。あいつ、見てるかな。俺たちのことを」
「きっと見てるよ。だって、あの味があるんだから」
熱々の大根を口に運びながら、晃司の頬がゆるんだ。
「……うん、やっぱり、これだ。澄子の味だ」
「……オカワリ!」
静かに広がる湯気の中で、三人は黙って鍋を囲んだ。 誰も急がず、誰も焦らず。
ただ、心がじんわりと温まる時間が流れていた。
外には、宇宙の星々が静かにまたたく。
旅を終えた者も、これから旅立つ者も、この店に立ち寄るだろう。
そしてまた、ポン子は笑顔で出迎える。
「いらっしゃいませ。今夜も、しみてますよ」
――それは、星の海に灯る、ひとつの“家”の光だった。
(完)




