7.犯罪はわりに合わない
ヘンリーが帰宅し、お父様に報告。
治水事業を真似ようとして、投資に失敗。多額の負債を抱え。領地の税率を上げることにしたらしい。
まず、自分たちの生活を慎ましやかにすればいいのに、侯爵時代のきらびやかさが抜けないようだ。
それで、領民が軒並み領地を離れようとしているらしい。
先祖代々守ってきた土地を離れるのだから、余程の覚悟だろう。そんなことはあの親子は考えもしないだろうけど。
「うちのスロートを侮るからこんな目に遭うんだ!恐れ入ったか‼」
私は何もしてないんだけど、うーん結婚してた時は事業を手掛けてたり、ヘロウがすべき仕事を私がしてたかなぁ?
他の事業も、「スロート夫人がいないなら……」と続々と投資家が手を引いているらしく、うまくいっていないらしい。男爵家の財力で他の事業を進めることは無理があるから、できないだろうなぁ。
最終手段として、あの親子が興した事業がケシの栽培。もちろん国で禁止されている。
「どうします?私の方から陛下に報告しましょうか?」
「そうだな?ケシの実が実って有頂天になっている所で騎士団に…っていうのが面白そうだ」
お父様とヘンリーが二人で妖しげに笑っている。コワイ。
あの親子、相当追い込まれてるなぁ。土地は領地を手放したものがある。まさか、手放した土地をそんなことに使われるとは思わないだろうなぁ。
数カ月して、ケシの実が実ったという報告を受けた。この時点でヘンリーは国王陛下に報告。陛下は騎士団をハロー男爵領の土地まで派遣する。ヘンリーが案内役を務める。騎士たちはヘンリーが第2王子だとは知らない。ただの公爵家の護衛で案内役だと。私もついて行った。
「うはははは、これで我が家にもまとまった金が入ってくるぞ!今までの貧しい暮らしからオサラバだ!」
『貧しい』と言っても、平民の暮らしよりはよっぽどいい暮らしをしているのだが……。
「まったく、領地を捨てていった領民が不憫ですね、父上!ハハハ」
「そこまでだ。違法植物の栽培容疑で現行犯逮捕する。大人しく騎士達に従え」
さすが、騎士団長!気迫が違います!
男爵親子、こんななのに護身用ナイフなんて持ち歩いてたの?
「こんなところで落ちぶれてたまるか!」
「そうですよ、父上!」
十分落ちぶれてると思うけど。堕ちるとこまで堕ちたみたいに私には見える。
多勢に無勢というんだろうか?
ナイフと剣だし。あっさりと男爵親子は捕まった。
あ~あ、罪状に騎士への抜刀も加わっちゃったよ。
このまま大人しく帰ると思ったら……、
「大人しく父上を解放しろ!この女がどうなってもいいのか?確か公爵令嬢だったよな?」
まだナイフを隠し持ってたの?卑怯者ね。でもね……。
私はナイフ程度で脅しに屈するような育ち方をしてないのよ!
私はヘロウに肘打ちし、思いっきりヒールで脚を踏み、落としたナイフを遠くに蹴り飛ばした。
「本当は私が格好良く助けに入るはずだったんだけどな」
「お生憎様。お転婆なのよ、今も昔も」
と、和やかにヘンリーと話している時、騎士達は男爵親子に『もうナイフなど隠してないだろうなぁ』と体中を身体検査していた。
「恐れ入りました。公爵令嬢でしたか。我々が不甲斐ないばかりに……」
「私も気を抜いていたのだから、騎士団長が気に病むことではない」
突然のヘンリーからの言葉に騎士団長は驚き、
「あの……どなたですか?」
あー、ヘンリーはあんまり表舞台に出てないからなぁ。
「この人はサーティ公爵家の護衛をしてるけど、正真正銘この国の第2王子のヘンリー=スパイタ様よ!」




