5.ハロー侯爵家→ハロー男爵家
「どういうことだ⁈ヘロウ? あの小娘がほとんどうちの事業を回していたんじゃないか!お前はそれを知っていたんだろ?」
「能無しのスロートにできるくらいだから、私でも楽勝だとタカをくくっていたんだ」
「能無し?!何を言うんだ?スロート嬢は貴族が通う学院も首席で卒業している才女。それに比べて、お前は領地経営の勉強すら出来ていないじゃないか!あぁ、頭が痛い。結果的にお前は才女の公爵令嬢ではなく、なんの教養もない平民の女を選んだ。それが事実だ。もう一人くらい跡取りがいればお前なぞ廃嫡してしまうような事態だ」
なぜ、俺の息子は公爵令嬢のスロートではなく、平民の女にウツツをぬかしたのか…。あ、あの女の胸だな。
侯爵たるものと言って聞かせていたのに、こんな風に育ってしまって……プライドだけがやけに高い、頭の悪い貴族に仕上がったようだ。それもこれも母親不在のせいだろうか?
あの女(息子の母親)は、出ていったからな。俺がフラフラと浮気性のために。そういう所が遺伝したのか。しかし、俺は貴族の女としか浮気をしていないぞ!平民の女なんぞ胸糞が悪い。
水門の話が終わった後、ハロー侯爵家の当主が陛下に呼び出されたらしい。まぁいい話じゃないだろう。常日頃から税収が少ない上に、他家の税収を減らそうと画策。これはちょっとなぁ。
侯爵から伯爵に格下げだろうか?いきなり爵位取り下げだってあり得る。伯爵だろうと貴族として生きていけるのだからまだマシというものだろう。
結果は男爵まで格下げになった上に、領地も大部分を没収。管理できていないから仕方がないというものだろう。
ハロー男爵家は夜会ではめったに見ることはない。話題で持ちきりなのに。だからこそ、夜会に出ることが恥ずかしくて仕方が無いんだろう。格下げの度合いがなぁ侯爵から男爵だもんなぁ。私なら、部屋から出られない。ショックで恥ずかしくて。
お父様はハロー侯爵家の行く末がわかっていたようで
「あ、やっぱり?そうだよね。あいつが侯爵とか絶対無理だもん。他人をどうこうすることができない人種。自分が一番!って感じ。もはや自分しかいない?みたいな。ハハハっ」
お父様はこんなだけど、周りが見えてるもんなぁ。
「スロートが嫁に行くってなった時『マジか?』って内心思ってたよ。政略結婚とはいえ、何にもうちには利益ないからな。結果離婚してきたけどさぁ。さて『真実の愛』はどうなった?」
「やっぱり薄っぺらのペラッペラで平民の女は『え~っ男爵~?あり得な~い!』ってあっさり破局したって噂。噂話がこうだから、真実はもっとひどいことを言ってヘロウの元を去っていったのかもしれないけど!他人ながら爽快ね!」
「やっぱり、イマドキ『真実の愛』はないよなぁ。絶対しっぺ返し食らうもんな。それでも浮気をするなら『こいつの方がいいから離婚してくれ』の方がいい気がする」
平民の女と天秤にかけられて負けるのは屈辱的ですけど『真実の愛』とか言われるよりはいいかなぁ?
「そもそも、浮気っていうか結婚してからというもの肉体関係は全くない所謂白い結婚だったので…」
「お前、マジか?白い結婚を何年か続けたらそれを理由に離婚できるんだぞ?」
「私から離婚を切り出すと、慰謝料とかくれないと思ったのよ。どっちにしろ、慰謝料もなーんにもくれなかったけど」
「よし、思う存分ハロー男爵家を潰そう!」
マズい。お父様のやる気に火をつけてしまった。
「ヘンリー、ハロー男爵家が取引している業者に全部手を回すように。当然取引停止だ」
うわー、えげつない。ヘンリーは護衛としてだけじゃなくて家令みたいな仕事もしてるの?
「お父様?ヘンリーは護衛じゃないのですか?」
「あいつはなぁ、侍女の仕事以外ならなんでもできるぞ。なんなら、厨房でも働くことが可能だ!……それが…あの可愛かったアンリちゃんだったなんて…」
お父様はまだ後を引いているの?私は結構早く割り切っちゃったんだけどなぁ。
~ハロー男爵家
どういうことだ?取引先が軒並み取引停止を言ってきている。今まではこちらの顔色を窺うように取引をしていたのに、どういうことだ?これが侯爵と男爵の位の違いか?
「スイマセンねぇ、ダンナ。上取引先だったんですが、上からの圧力も…おっとこれはいけねぇ、男爵になったダンナでは取引先としてあまり儲けを期待できないんですよ。そういう事で……」
というのが大体の理由。『上からの圧力』?サーティ公爵家か?仕返ししたくとも、こちらは男爵。なんかしようものなら、不敬罪と問われかねないからなぁ。ますます生活が苦しくなる。