4.疑惑の侯爵家
代官は気候を見て、判断し、水門の開け閉めを指示するようになっていた。何故?農民から農地が水浸しになったという苦情を受けた。
急いで見に行ってみると、本当に水浸し。
代官は昔からの馴染みだし、勝手に水門をどうこうできるような腕力を持ち合わせていない。
確かに水門のあるところには誰でも入れるようになっている。それが甘かった。
「何者かが勝手に侵入し、水門を開けたようですね。只今早急に水門を閉めます」
最近の天気だと、水門を閉めておくのが正解だ。こんな卑怯なことをするのはおそらくハロー侯爵家の手の者だろう。しかし、証拠がないので自分の不甲斐なさを後悔するのみ。代官のみが鍵を持っているということにして、水門までの入り口には鍵をかけていればよかった。
被害はまだ種を蒔いていない畑もあったので、甚大ではないがそれでもイライラは収まらない。
「スロート、落ち着いて。水門で川の水の量を調節できることを知っていたのは誰?」
「この建設に関わった人よ」
「まだいるだろう?もともとこの事業はハロー侯爵家でやるはずだった事業じゃないのか?だとしたらハロー侯爵家の連中もこの仕組みを知っているハズ」
水門のこともハロー侯爵家の人間なら知っているはず。
「ありがとう、落ち着いたわ。アンリちゃん」
思わずヘンリーの事をアンリちゃんと呼んでしまった。
マズい!と思ったが、笑って流された。なんか余裕を感じる。
そんな時には土砂降りだったはずの雨も上がって、晴れ間も出ていた。
帰りの馬車の中、私はヘンリーに全てをぶちまけた。
「ヘロウの奴はねー。離婚する時にイマドキ『真実の愛を見つけた』とか言ってたのよ?しかもそのあとさぁ、私にちっとも慰謝料とか渡さないの!最低よね?私がしていた事業のひとつも渡さないのよ?あ、この治水事業もそのうちのひとつなのよ。絶対に当たると思ったし。領民にはいい暮らししてほしかったしさ」
ヘンリーは優しい目で私を見つめるだけだった。なっ、なによアンリちゃんだったのにちょっとドキドキするじゃないの。馬車が揺れてなんかスリルがあってドキドキするのかしら?
私は知ってるわよ。こういうのってイシバシコウカって言うんでしょ?ツリバシコウカだったかしら?そんなのに騙されないんだから!
私はお父様にも報告をした。
水門が何者かによって開けられていた。と。
水門の事を知っているのは、この事業に関わる人だけ!だと思っていたけど、ヘンリーがハロー侯爵家も知っているだろうと進言をしてくれた。
まぁ、それによって自分の不甲斐なさも感じたんだけど、ヘンリーに色々ぶちまけてすっきりしたわ。
「ハロー侯爵家なぁ…。自分たちの浪費を棚に上げて、税収の少なさを領民のせいにしていると陛下のお耳汚しにもなっている」
あ~あ、手を汚してまでやったのになぁ。
「サーティ公爵家の税収を減らした所で、自分の領地の税収が増えるわけでもないのにご苦労なことだよ、全く」
お父様まで匙を投げているように話す。来期には侯爵から伯爵になるんじゃないか?とも言われているそうだ。
石橋効果は違うよ。と、誰も突っ込む人がいないんですね。石橋は丈夫だから、ドキドキしないなぁ。凡ミス?