3.同一人物論
まず、頭の中を整理しよう。
アンリちゃんはアンリちゃんて女の子じゃなくて、泣き虫なヘンリーという男の子だった。
その男の子は成長してうちの騎士として今、護衛でついてきている。
事実はそうかもしれないんだけど、頭の中は可愛かった泣き虫のアンリちゃんが……。いきなり、その子は男の子で『自分の小さい頃です』って逞しく成長した騎士のヘンリーに言われても……。
翌日行ったソルク湖の測量はその日のうちに終わらせた。このデータを基に事業計画にあるような模型を作ろう。
などと私が計画しているうちに、ハロー侯爵家がどんどん没落していっているという話を耳にする。社交に出ていない私が耳にするくらいなのだから、社交界では相当噂の的なんだろう。
領地経営も碌にできないし、新しく事業を始めるにしても人脈がない。もう収入が無いのに、支出は派手なんだろうなぁ。真実の愛を守るために。
まぁなるべくしてなった感じはするけど?
それは放っておいて模型模型!えーっと、4000分の1サイズでいいかしら?こんな男性みたいな事をしているから、嫌われるんだろうな。と思うとちょっとセンチになってしまうが仕事!
まずはソルク湖を作って、そこに水門を何カ所か設置。歯車式で大丈夫なように4000分の1サイズで歯車を作る。これが結構細かい作業となった。が、何故かヘンリーが得意だった。何故?
「昔から細かい作業が得意なんだ」
確かにアンリちゃんは細かい作業が得意だったなぁ。
そんなで水門も完成させ、模型も作った。
お父様、いざ尋常に勝負よ!
「どうかしら?先日お父様に手渡した事業内容は読んでいただけたかしら?その模型がこちらよ!」
私はどどーんとお父様の前に出した。
「いーよー。事業はうまくすると各農家が潤い税収もアップするだろうね。いろんな投資家がこぞって投資をするだろうね。事業内容書とこの模型を見れば」
そうでしょう。そうでしょう。頑張ったもの。お父様のリアクションが軽かったのが気になるけど、まぁいいわ。お父様は事業内容に(・)は(・)厳しいから。
そういえば、お父様は護衛のヘンリーと昔私が遊んでいた泣き虫アンリちゃんが同一人物って知ってるのかしら?聞いてみた。
「そ、そんな馬鹿な…。あの可愛かったアンリちゃんが、こんなにゴツイ騎士になるなんて」
ゴツイは言いすぎよ。逞しいに言い換えてあげて!
「私も驚いたのよねぇ。まさかの事実よ。キティは知ってたわよ?」
「何でキティはわかったんだ?」
「うーん、私と遊ばせる段階でその人の為人を調べてるからでしょうか?それでかな?」
そうよね、キティ恐るべし。
その後私が始めたソルク湖の治水事業は成功して、ガッポガッポと税収が入るようになった。投資してくれた方にもきちんとその分の配当を払ってもまだなお余りあるこの税収!
今後は代官の方も気候をしっかりと見極め、水門の開け閉めをうまいこと調整してもらいたい。そして農作物を沢山収穫して納税をしっかりすれば、貴族として完璧よ。
~その頃のハロー侯爵家
「お前は領地経営も碌にできないのか?このままじゃ今年の納税が。侯爵から伯爵に格下げという事もあり得るぞ」
「父上。風の噂で聞いたのですが、私と離婚したスロート=サーティが最近治水事業を成功させて、サーティ公爵家は税収がガッポリと」
「他の家の事はいいんだよ!」
「その事業なのですが、私と離婚する前に侯爵領で進めていた案件をサーティ公爵領に移したものだと聞きました」
「何だと⁈と、いうことはその税収は本来ならば我が侯爵家が手にするはずだったものということか?」
「そういうことになりますよね?」
「考えものだな、これはちょっと調べてみる必要がありそうだな。叩けば埃の一つや二つ出てきそうだな……」