肆、大学
前回のあらすじ
国の人が来て、検査のためにノアは連れて行かれた。
俺は学校に行く。ノアのことは口封じされている。平静を装わなければならない。異世界のことを悟られてはいけない。「異世界」というワードに反応しないようにしないとな。
「…というわけで、これらの資料からわかることは、余裕が出てきた江戸の町人は東海道を旅して伊勢…」
ビクッ
「どうした西峯?」
「何でもないです…」
びっっっくりした!異世界と思ったら伊勢かい!授業中にこうなるとは不覚。あまりにも目立ちすぎる。これから上手く隠し通せるだろうか。ノアのことを意識しないようにしようとするほど、どうしても意識してしまう。
2週間後、ノアが帰ってきた。IQ検査、遺伝子検査、その他諸々の検査を受けてきたらしい。結果はただのホモ・サピエンスだったそうだ。杖は仕組みを解明するために研究機関で預かっているらしい。そんなことをしても無駄だ、と彼女は言う。
「だから自分で研究したほうがいいと思ったんだよね。私、大学に入ろうと思う。高卒資格取ったし」
大学!?そんなのクラス一位の俺だって考えてなかった。
「どういうところとか決めてる?」
「現段階では魔力の概念が確立されていないけど、そうしたところで意味はないから、魔力を取り出す装置の開発が急務になる。だから物理工学を専攻しようと思うんだ」
何大学か知りたかったのに、自分のやりたいことから探している。大学とは本来そうして選ぶものであり、世の中の受験生には見習ってほしいものである。
「ちなみに何大学?」
「この世界のことはよくわからないけど、国の人に聞いたら東●大がいいって言ってたからそこを目指すよ」
「めっちゃむずいけどがんばれ」
「ゆーいちはどうすんの?」
「役場に就職するつもりでいたけど」
「そう…」
そう言う彼女の表情は少し曇っていた。
〜〜〜〜〜
「一緒に東●大に行きたいのに…」
その晩、ノアは自室となった部屋で呟く。杖も取り上げられて魔法も使えない一般人になってしまった以上、一人でできることも限られるし、魔力を汲み出せただけでは魔法を使えない。せめてあと二人協力してくれる人がいなければ、元の世界には帰れない。魔法発動から一年で再び異世界転移魔法が使えるようになるが、それまでの滞在だと思っていたところ、しばらくかかりそうだ。もしかしたら帰れないかもしれない。
とは言っても、今すぐ帰れるとして、帰る選択をしていたのだろうかと考えると、そうは思えない。それが何故かはおいおい考えるとして、今日はもう寝よう。明日からは受験勉強だ。
東●大と書いてますが、捻くれた考え方をせずに、素直に某日本NO.1(と世間からは一般的に認知されている、国際卓越研究大学に認定されなかった方の旧帝)大学と解釈してください。赤い門のところ。