參、国の人
前回のあらすじ
やっと“伝統”の口調を改めた。警察が家に来るようだ。
「なんで警察が?!」
この辺の駐在所の巡査が一人、それだけだ。目的は十中八九ノアだろう。昨日井戸のことについて報告した近所の家のオバちゃんが、買い物先で巡査の奥さんにでも会って、うっかり話しちゃったんだろうな。よくあることだが、今回ばかりはそう言ってられない。まぁ、ノアと巡査は会わなきゃいけないのだろうが。
いろいろあって、結局聞き取りだけで終わった。しかし、最後に、巡査はこう残して帰る。
「明日か明後日、国の人が来るから」
「今日は月曜日なのに学校にいかなくていいの?」
巡査が帰った翌日、ノアが尋ねる。
「ゴールデンウィークだからね」
「まだ祝日があるんだ…」
気まずくなり、それ以上の会話はしなくなった。「まだ」ってなんだよ。
すると、スーツに身を包んだ男が、2人、我が家に近づいてくる。これがおそらく昨日巡査が言った「国の人」だろう。
昨日巡査に話したことと同じようなことを話す。すると向こうから驚くべきことを聞かされる。
「不定期だけど時々パラレルワールドからくるような人っているんですよね。戸籍の方はこちらで弄っておくので心配なさらずに。それと研究のためしばらくこちらで身柄を預かっておきます」
「『しばらく』というのは?」
このままじゃ彼女は一生帰ってこれない。そんな気がする。こちらが「会わせてくれ」なんて言っても「死亡した」とか言って赤の他人の遺骨を送って寄越すだけだ。絶対そうだ。だから今、釘を刺しておいた。
「そうですねぇ」
国の人はすこし考え込んで口を開く。
「たまに、国家を転覆させることができるくらいの力を持った転移者がいるんですよね。そういう危険性があるならば一生こちらで管理しますが、安全であると判断すれば半月ほどで身柄はそちらに引き渡します」
続けて、「ご安心を。拷問はしませんので」なんて言う。余計安心できない。
そんなこんなでノアは連れて行かれた。魔法の発動に杖が必要であることは伝えてあるので、もちろん杖も持っていかれた。
ゴールデンウィークが終わり、俺はいつも通り学校へ行く。ノアなんて初めからいなかったように。
ちなみに、ノアには西峯乃愛としての戸籍が与えられることになった。何かあったら適当に変えてくれるそうで、役場ではなく国の人に言えばいいとのこと。
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