幸せとは
幸せとは何だっただろうか。
おぼろげには思い出せるけれど、分からない。
言葉として、美味しいものを食べたときに幸せを感じる、という事は分かるのだけれど、恐らく私が味覚を対価として巻き戻りの魔法に与えてしまったのはずいぶん前のことだ。
「普通でない幸せで本当にあなたは幸せになれるのですか?」
彼は魔王を倒した英雄だ。
幸せにならねばならない。
それもとびっきり。
そうでなければ、報われないじゃないか。
だから、なのだろうか勇者が私を見る目に哀れみが含まれている理由が分からない。
「なあ、一緒に旅をしよう」
勇者は私に向かってそう言った。
「魔族の残党を倒す旅ですか?」
勇者は祝賀会で確かにそう言った。
「それは戦士である彼がやると思うよ」
戦士は『俺は戦いの中でしか生きられない男だ』が口癖だった。領地経営の経験のない彼の元には代官が派遣されるらしい、彼にやるべき領主としての仕事はない。
「じゃア……」
上手く声が出なかった。
「二人で旅をしよう、世界の色々なものを見よう。
沢山一緒におしゃべりをして」
そこで一旦勇者は言葉を区切った。
「それで、少しずつ、その呪いの様になってしまったものをなおしていこう」
呪いだとはっきり勇者は言った。
「違います……」
「違わないだろう!」
勇者はしっかりと言った。
「君も幸せにならないきゃいけない。
何故なら君も……、君が魔王を倒したからだ」
俺たち四人が魔王を倒した。だから四人とも同じように英雄であるべきだ。
決意のこもった目で勇者は私にそう言った。