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【完結】夜明けの理 魔王を倒した後にいつも死んでしまう勇者と女魔法使いの話  作者: 渡辺 佐倉


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【番外編】スープの話

二人で出奔してしばらくしてから、僧侶の術が効くよりは前のお話です

まだ失ったものが相当に多い魔法使いと勇者のお話です

勇者視点


「うん、美味い!!」


魔法使いの作ったスープを食べてそう言う。

野営の時の食事版は戦士を除いて交代制だった。

彼の料理はいけない。

あれは料理と呼べる代物ではないから。


その時から彼女の料理は普通においしかった。

それは味覚をすでに奪われているものとは思えない位に。


彼女の味覚の大部分が失われていることには大分早い段階で気が付いていた。

生きる楽しみのどのくらいが無いのだろうと思ったこともあった。


魔法使いはかすれた声で「毒とかはちゃんとわかるんですよ!?!?」とよくわからない事を言っていた。

毒が判別できるスキルと食事を楽しむ味覚は違うだろうに。


だけど上手く言葉にできなかった。

それに彼女の作るものは普通においしい。

それに懐かしい味がする気がする。


正直に彼女に言ってみた。

魔法使いは、少し考えてから「体が覚えているからですかね」と答えた。


「今の私は自分の家族構成すら覚えていないんですが、多分きっと体が覚えてくる位ずっとずっと小さいころから作っていたんでしょうね」


彼女の作るレパートリーはそれほど多くない。

元々それしか作っていなかったのか、記憶を必要とせず癖だけで作れる料理がそれだけなのか分からない。

時を戻った違和感を隠すためなのだろうか、いつから魔法使いがこうなのか、巻き戻り地点が思い出せないのだ。

この体で本当に魔王討伐の任に選ばれたのかも怪しいため最初の挨拶は繰り返しをしていない彼女なのかもしれないのに今の彼女との差を上手く頭が処理しない。

そういうものだと僧侶が言っていた。

だからこそふとした時の違和感が大切なのだと。

彼女が何を失っているのか正確につかむため思い出したことがあれば送って欲しいと言われている。

今は彼女が呪いでぐちゃぐちゃになっていることだけはわかっている。


彼女がこうなってしまう前にもっとたくさん話しておけばよかった。

そうすればこのスープだって何か思い出があったのかもしれないし、他の何かが分かったかもしれないのに。

何も思い出せない。


「美味しいですか?」


かすれた声で魔法使いが聞いた。

俺が難しい顔をしていたからかもしれない。


「ああ、美味しいよ。また作って欲しいな」


それからいつか彼女が少しでも食べることが楽しめるようになりますように。

俺はそう祈らずにはいられなかった。

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