いつもと違う
そうして、それから私は、何度も、何度も、何度も、何度も世界を巻き戻した。
毒殺を防いだはずなのに、勇者は死んだ。
色々なことを試してもいつも勇者は幸せになる前に死んでしまう。
どうしたらいいのか分からなかった。
恐らく記憶を対価にささげた時もあったのだろう何回か分のやり直しの記憶が無い。
私の魔法の質も対価によって変わってしまっている。
顔も人に見せられるような状態じゃなくなったため、普段から布で隠して過ごすようになった。
それでも、質の変わってしまった魔法でも魔王を倒す助けになったのは良かった。
* * *
「私は、あなたとの婚約を破棄させていただく!!」
勇者が祝賀会で叫んだのはもう何度巻き戻したか、数えなくなってからずいぶんと経ったと思う。
けれどこれは覚えている限り初めてのパターンだった。
勇者はお姫様と幸せに暮らしました。
にならなければならないのに。
目の前の光景が信じられなかった。
しかも婚約の破棄を宣言しているのは共に旅をした勇者だ。
何が起きているのか分からない。
これは本当に勇者の望みなのだろうか。
けれど、ここへきてもう勇者の生き残る道など無いのではないかと諦めかけていた私にはそれが希望の光にも見えた。
何があったかは分からない。
けれどいつも向かう悲しい結末とは違う方向に向かうかもしれない。
少なくとも何か今わかっていない何かがあるのかもしれないと思わせてくれた。
祝賀会はお祝いのムードから一気にざわめきに変わっていた。
お姫様はオロオロと王様を見ていた。
王様は勇者をにらみつけるように見ていた。
「我が姫との結婚を拒み、勇者殿は何を望む」
「何も。という訳にはいかないでしょうが、魔族の残党がまだおります。私はそれを退治するため諸国を周りたいのです」
堂々とした物言いだった。
勇者は平民出身だ。
けれど、まるでそうではないように見える。
私が知らない間に何かあったのか。
魔法の副作用で私が大切な記憶を失ってしまっているのか困惑した。
世界には魔族の残党がいるのは確かだ。
けれど、”勇者でなければ倒せない”ような魔族はもういないことも確かなのに。
私は精一杯記憶の引き出しを探し歩いたけれど何も思い浮かばなかった。
いつもこの祝賀会は、私には何か珍しい魔道具と報奨金、僧侶には教会での地位、戦士には故郷の領地、そして勇者には伯爵の地位とお姫様の結婚と決まっていたのだ。
王様は勇者をもう一度にらみつけた後、勇者には諸国を渡るための許可証と軍資金、それ以外の者たちには今まで通りの褒美を渡した。
勇者はそれを聞くと頭を下げた。
私はお姫様を見た、お姫様はあまり悲しそうではなかった。
理由は繰り返す悲しい結末への道の中で知っていたので、やっぱり。という気持ちの方が大きかった。
だけど、勇者は国を動かせるような人間になりたかったのではなかったか。
お姫様と幸せになりたかったのではなかったのか。
それだけが気になった。