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【完結】夜明けの理 魔王を倒した後にいつも死んでしまう勇者と女魔法使いの話  作者: 渡辺 佐倉


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結婚

その日は、青い空が広がっている日だった。


新郎はらしくなく緊張した面持ちに見える。



「いつの間に、ってかんじだよな」


勇者が私に言った。

私は微笑んだ。


今日は戦士の結婚式だ。

この五年、旅の途中何度も私の隣にいる勇者ではない勇者の活躍を耳にした。

皆が勇者以外には無理だろうと思っていたその偉業の主は、その激務の中近くの別の領主の娘さんと良い仲になっていたらしい。


きっかけはやはり魔族討伐。

勇者のふりをして戦う以外に彼は彼の領と近接する領にいた魔族を倒して回ったらしい。

それは領主としての仕事だと思っていた彼はそれはもう見事に蹴散らしたらしい。


それを見ていたその領の娘さんは戦士に一目ぼれ。

魔族討伐のお礼と称された晩餐で二人はとても仲良くなったそうだ。


戦士の隣に並ぶお嬢様といういでたちのこはとても嬉しそうにかわいらしい笑顔を浮かべている。


「ああいうの、やっぱりあこがれるものなのか?」


勇者が私に聞く。

多分結婚式のことなのだろうと思った。

自分が結婚することについてあまり考えたことが無かった。


私の場合かなり多くの時間を勇者とお姫様がが幸せに暮らせるようにと考えていた所為か自分についてはあまり考えないようにしていた。


それに勇者が結婚した。と知られればまた面倒な色々なものに巻き込まれる可能性が高いのであまりにも現実的ではない。


「ほら……、今すぐにという訳にはいかないだろうけど、世の中には駆け落ち婚のために身元を聞かない教会もあるらしいから」


勇者はそっぽを向きながらぼそぼそと言った。

耳元が赤いのは気が付かないふりをすることにした。


「そうね。いつか……」


でもその前にもう少し綺麗になりたい気もした。

対価として魔法に差し出したのだ。

返してもらうという言い方はおこがましいのかもしれないけれど、呪いの様なそれが無くなるならそれに越したことはないと思えるようになった。

だから、そう。もう少し旅をしてせめて着飾り甲斐があるようになったら考えてもいいのかもしれない。


だけど――


「形としてのものだけが幸せじゃないわ」


私が言うと、勇者は同意するようにうなずいた。


二人の結婚の誓いを聞くのは勿論僧侶だった。

彼も忙しい筈なのによく時間を捻出したと思う。


それから新郎と新婦は教会の外に出る。

皆がお祝いの言葉をかける。

私は軽く杖を振った。

雨粒より小さな小さな水の粒をだして風の魔法で浮かばせる。

それはさんさんと輝く太陽に反射して小さな虹をいくつも作った。


私は元々魔導書を使って魔法を出していたけれど、杖もなかなかしっくりくるようになっていた。


招待客から歓声が上がる。

勇者から贈られたなにか、は後々問題になるかもしれないという事で一切のお祝いの品を断られてしまっている私たちからの結婚のお祝いのしるしだ。


戦士が私たちを見た。

険しくも見える目の目じりが少し落ちる。


喜んでくれたみたいで何よりだった。


「魔法はすごいなあ。戦い以外にも色々使えて」


俺も何か覚えようかなあなんて勇者は言っている。

勇者はうらやましくなってしまわなかったのだろうか。お姫様と結婚できたかもしれない未来を。


だけど勇者は次の瞬間満面の笑みで「仲間が幸せだと嬉しいな」と言って、それから「俺たちもそろそろ行こうかと言った」


パーティーは自己紹介をしないといけないため、まだ少し勇者については伏せておきたい。

勿論嘘の経歴でやり過ごすこともできるのかもしれないけれど、仲間の結婚でそれはしたく無かった。


戦士だけに分かるようにそっと手を振ると私たちは、新たな旅に出発した。

それは寂しいものではなく、希望に満ちた新しい旅立ちだった。

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