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【完結】夜明けの理 魔王を倒した後にいつも死んでしまう勇者と女魔法使いの話  作者: 渡辺 佐倉


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明日への希望

僧侶の作戦

×戦士が囮をやっている間に勇者と魔法使いは癒しの旅をして魔法使いを治す

○戦士と勇者が囮をやっている間に、僧侶が魔法使いを大掛かりに癒す術を完成させて魔法使いを治す

全てが元に戻った訳ではない。

それは私にも分かる。


けれど、失ってしまったもののうちかなりものが私の元に返ってきたことが分かる。

これだけ大掛かりなことをするのには綿密な準備と、術者の集中が必要だ。

癒しの力で呪いになってしまったもの失ってしまったものを戻そうとする。それがとても難しいものだと魔法使いの私には分かる。


自分の髪の毛の房を見る。

私が覚えている色とは違うけれど人間らしく見える。


私がこの先人間として何とか暮らせる分を(そうりょ)が取り戻してくれたのだ。


「ずいぶん、時間がかかったでしょう?」


教会の床に描かれていたのは神の力を直接使う聖者のための術と魔法が合わさったものだった。


「五年もかかってしまいました」


肩で息をしながら僧侶が言った。

彼は五年かけてこれの準備をした。


「そういう作戦だったからね」


勇者が私の髪を撫でた。


各地を旅してまわった。

皆勇者が今どうしているのか、勇者が出奔してしまった所為で変わってしまうかもしれない様々なことに気をもんでいた。

皆勇者のことばかり考えていた。


誰も勇者の仲間だった僧侶が何をしているのか気が付かないくらいに。


教会には聖女もいた。

聖女の力は元々強かったが今は沢山の子供たちも救ってその人気は絶大だ。


だから、少し僧侶の活躍の場が少なくても誰も気にしなかった。

教会は確実に勢力を伸ばしていてその中で僧侶の地位や権力は確かに上がっていたから。


勇者に関わりそうな手紙は色々な国が盗み見ようとして、事実盗み見られていたけれど、誰も僧侶については気にしていなかった。


その期間を稼ぐことが僧侶の作戦だった。


勿論勇者が少しずつ私を癒していたことに意味はあった。

私は嘘がつけるようになって、見た目が少しだけ良くなって、あの旅で少しだけ味覚も戻った。


けれど、それだけでは駄目だった。


今の私なら分かる。

どういう生活を望むかを別として、そもそも今までの私に生活をまともに一人でこなすことなんてできなかった。


そういう必要な部分を僧侶は引き戻してくれた。


「ありがとうございます……」


私はお礼を言った。

涙があふれてきた。


「でも、みんなの幸せは?」


勇者はお姫様との結婚を捨ててしまった。

戦士はこの五年戦ってばかりだっただろう。

僧侶にいたっては教会内での地位を築きつつこの術を練り上げた。


「仲間を失うよりも不幸なことはないんだよ」


勇者がはっきりと私に言った。

それは知っている。

私も知っている。


だから何を差し出してもやり直したかったから。

涙があふれた。


「君が何度も時を戻してくれたことは”知っている”。

ありがとう。

だけど……。いや、だからこそだな。

目に見えてうらやましがられる様なものだけが幸せじゃないと知っているよ」


涙が止まらない。


「まあ、私は地位も大好きですけれどね」


地位に回せる余力を全て私のために使ってしまった筈の僧侶はそう言った。

戦士は「どちらにせよ、俺には戦う事しかできない」といつもの様に言った。



私はみんなを見回して涙でぐちゃぐちゃの顔でそれでも笑顔を浮かべていた。

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