取り戻せたもの
* * *
ある時パキンと私をとりまく薄い皮膜が割れて外へ向かって引き揚げられた。
感覚としてはそれが一番しっくりくる。
最初に見えたのは心配そうにこちらを覗き込む勇者の顔だった。
勿論、ここまでの記憶はある。
何度も勇者は死んでしまって、最後彼はなぜかお姫様と婚約破棄をして私と旅をしていた。
覚えている。
体を触られても何故恥ずかしく無かったのか、私は何故あんな状況でまるで勇者に介護をさせるみたいにしていて平気だったのか。
理由は今ならちゃんと分かる。
私に足りなかったものが多すぎたからだ。
けれど、今の状況であの恥ずかしい日々を思い返すのは少しきつい。
それなのに勇者はあの旅の最中も時々悲しそうな顔をするものの楽しそうで、ずっと私と共にいた。
いまだってただ心配そうな顔でこちらを見ている。
「やはり、全部を引き出すのは無理でした」
ゼイゼイと肩で息をしながらへたり込んだ僧侶が勇者の後ろにいるのが見える。
「まさか、あなたが私を治そうとするなんて……」
私が驚いてそう言うと「仲間なので」と僧侶は言った。
戦士はじっとこちらを見ている。
私の記憶がちゃんと戦士は勇者のふりをして世間を欺ていてくれたのだと教えてくれる。
「おかえり。
そして初めまして」
勇者は私を見てそう言った。
それで、ああ、この人たちはある程度のことを知っているのだと思った。
そして今勇者は確かに生きている。
私の望んだ勇者の幸せの形と違うけれど、確かに彼はまだ生きていた。
魔王が死んでからもう五年の時が経っているのに彼はまだ生きていた。
「あなたは、あなた達はどこまで知っているのですか?」
どこまで知っていて私を治そうとしたのだろう。
捨て置けばよかった。
それでそれぞれ幸せになってくれればそれで充分だった。
けれど勇者たちは三人で顔を見合わせて困ったように笑うだけだった。




