王様の後悔
王様視点
この世界は女神様のご意思で生まれた。という考えは広く伝わっている。
それを信じている人間も多いし、いわゆる聖力は確かに存在している。
この国にも教会は多くあり、王家と教会は手を取り合って国の発展に尽力している。
――表向きは。
実際は教会と王家は影響力をどちらがより持つかという水面下の争いをしている。
貴族にも、王族派と貴族派と教会派がある位だ。
だから、教会が認めた勇者という存在を教会のものにしておくわけには絶対にならなかった。
魔王が倒せるか、は置いておくとして、魔族を倒したという功績は全て王家の臣民によるものでなければならない。
仮に魔王を倒せたとしたとき、その手柄は必ず王家のものでなければならない。
そのための約束だった筈だ。
勇者という存在が教会のものにならなければいい。
そのための措置だった。
平民の血を入れることに難色を示す貴族は勿論沢山いたが、その部分だけは王族派の貴族は皆わかっていたはずだ。
勇者は王侯の所有物とせねばならなかった。
それなのに勇者はよりにもよって宮殿に帰ってきたばかりの祝賀会で姫との婚約を無かったものと宣言して出奔した。
青い血が手に入るのだ。
何よりの褒美のはずなのにその身一つであの愚か者は出て行ってしまった。
挨拶すらなかった。
あり得ない。だがどうすることもできない。
勇者が見つからないのだ。
勇者は確かにこの国の王侯のものだと宣言しなければならないのにも関わらず勇者はいない。
せめてそれを隠そうとしたのだが、勇者にあてがった姫がことさら、それを嘆くようにけれど歓喜するように婚約破棄の事実を広めてしまった。
教会はこれはチャンスとばかりに様々な方法で王家を糾弾する。
教会からは魔王討伐に力のあるものを出したのに、王家は何をしていたと。
英雄である筈の勇者が婚姻を拒み出奔したのには何か王家にとって都合の悪い事実があるのではないかと。
しかも、状況が良くなかった。
勇者には姫以外何も褒章を出していなかったのだ。
勇者の仲間にもわずかな金銭と辺境の領主を与えたのみ。
僧侶にいたっては教会での地位と言っても名誉程度のもので、教会では別の褒章を出したらしい。
しかも噂によると魔王討伐に際してその僧侶は神から恩寵を賜ったという。
死地に送り出して生きて戻った英雄に何もしない国王というレッテルが貼られてしまったのだ。
挽回しようにも肝心の勇者はどこにいるのか分からない。
目の上のたんこぶである教会は英雄の一人である僧侶を中心に求心力をつけてしまっている。
いつどこで勇者がその名声を使って民をまとめ上げるか分からない状況の中、主に魔族の被害がおおきかった国との外交が上手くいかなくなった。
そして、神の悪戯なのだろうか。教会には聖女と呼ばれる強い術者があらわれて更に勢力を増している。
国によっては国教として保護しようという動きさえあるらしい。
一度王侯の物となってしまえば所有物だ。どうすることも自由だったはずの勇者がポロリと手のひらから転げ落ちてしまった。
もう一度、別の方法で取り込めばいい。
勇者の仲間であった僧侶に確認をとっても、領主となった戦士に聞いても「彼は魔族の残党狩りをしているでしょうから連絡の取りようがありません」と返されるのみだった。
彼らの信書を諜報員をつかって盗み見ても、魔法使いがこうだったなんていうバカげた思い出話をしている位だった。
その魔法使いは金をもらったらさっさといなくなってしまっていた。
魔法使いは平民だ。どうせ大したことはできない。
いっそ魔王討伐など無かったら。と詮無いことを考えてしまう。
今はただ、勇者を他の国が遇さないことをただただ祈るばかりだった。
勇者さん、王族が力を持ちすぎることを危惧した貴族派に…回と、教会の影響力低下を憂いた教会派に…回と王族派の内紛に巻き込まれた回があったものと思われます




