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【完結】夜明けの理 魔王を倒した後にいつも死んでしまう勇者と女魔法使いの話  作者: 渡辺 佐倉


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美の町

勇者視点


美の町といわれる町がある。

最初はどんな人でも塗ればたちまち肌がきれいになるというクリームを発明した魔法使いがいた。


そう、魔法使いだ。

魔法の力で肌をきれいにするクリームを中心にこの町は栄えているらしい。

老い以外にもさまざまな理由で変わってしまった見た目を修復する魔法。

それを使ったエステやスパ等もあり、またこの町でしか買えない化粧品などもあり、観光客も多い。


おそらく気休めにはなるだろうと僧侶からも聖女からも言われた。

失われているものが多すぎて少しその手に戻ってきたとしても気休めにしかならない。


宿は聖女の紹介でとれた。

けれど実際に魔法の力で施術するサロンがうまく見つからなかった。


そういう店はたくさんあるし、予約がいらないはずの店も多い。

ただ、魔法使いの体について他言無用という点について、断られてしまうのだ。


そこは絶対に譲ってはならない点だと知っている。

俺が泉で見た体は、女として意識をするとか以前に人間の体と認識できるか怪しいものだった。


だからこそ人に洩らされては困るのだ。

特に何度も殺されてきた俺にとって、俺たちパーティがまともじゃなかった。というのはまた敵を作ってしまう原因になりかねない。


だから、魔法契約を結んでほしい。と願い出るがそれを請けてくれる店はなく、途方に暮れる。

魔法使いは、周りをせわしなく見つめている。


「勇者はきれいな人が好きなんですか?」


魔法使いは言った。


「いや……。中身が伴わないきれいさは怖いよ」


伝言に書かれていた手記を思い出しながら言う。

外の美しさに惹かれた結果殺された俺が過去いた。


何軒か断られて、『多分どこも無理ですよ』と言われて、だめならここを最後にしようと思った路地裏の小さな店に入った。


「なに?訳ありさんなの?」


その店の店長だという女性はにやりと笑った。

足元を見られるというのは分かった。


「うちは高いよ」


けれど、魔法契約については何も言わなかった。

少なくとも魔法使いに危害を加えず、彼女の体のことを公言しなければそれでよかった。


「ただ、私に面倒が見られるのは、よくてそうだね、二、三週間ってところだ。

それ以上は多分呪いがこっちまできかねない」


まだ何も説明していないのにその店長の女性はそういった。

それだけで彼女がかなりの手練れであることはわかる。


「支払いは分割で、必要なだけ魔物を狩りに行ってくる」

「そりゃあ、ふっかけがいがあるねえ」


店長は面白そうに笑う。

魔法使いはおろおろしていた。


「じゃあ、おじょうちゃん。毎日ここへおいで。

少なくとも見てくれだけは今よりほんの少しマシにしてあげるよ」


じゃあまず今日の分だねえ。

魔法契約を素早く交わすと、店長はそういって店の奥に魔法使いを招いた。


かかる料金は貴族価格なんていうものをゆうに超えた金額だった。

本気で狩りをして支払えるかどうか。


俺はため息をつくと一度町を出て転移の祝福を使ってまだ魔族が多くいる場所に行って日中はずっと残党狩りをしていた。


換金した金を持ってサロンに行く。


「何をしたらここまでになるのかは聞かないけどさ」


店長は俺をにらむように見た。

明日からは断られるだろうかと思った。


「悪いけどさ、髪の毛は少し切らせてもらったよ」


その言葉に合わせるように、魔法使いがおずおずとフードを外した。

短く切りそろえられた髪の毛はお世辞にも美しいといえるものではなかったけれど、それでも人の髪の毛のように見えた。


「ありがとうございます!!」


思わず大きく叫んでしまった。

店長も、魔法使いも驚いていた。

前に見た魔法使いの髪の毛はもっと朽ちた草のようなものを思わせるものだった。


俺は驚いた顔をしている店長に今日得た金をそのまま渡した。

それを見て店長は先ほどよりもっと驚いた顔をしていたけれど、その部分はどうでもよかった。


少し先が見えた気がしてうれしかった。それがまだ長い道のりであったとしてもうれしかったのだ。


それから十五日ほど魔法使いは毎日店に通い。俺は毎日魔族を倒した。

ほかの目に見える変化は皮膚が少し人間に見える形になったくらいだがフードを外して過ごせるのは行ける場所が増える。


魔法使いも自分の髪の毛を触っては驚いているようだった。


十五日目、今日でおしまいだと店長に言われた。

そして、しばらくは使えるだろうとこの町の特産である化粧クリームをいくつももらった。


「こういういい匂いのものっていいですよね」


おかしいですか? 前、かわいいものが好きだったのかも覚えてないのにこんなことをいうのは。

そう、魔法使いは言った。


「いや全然。自分が何が好きかわかるのはいいことだよ」


そう言ってから、自分のそういうものを俺も考えなければいけないのだと思いいたった。

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