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【完結】夜明けの理 魔王を倒した後にいつも死んでしまう勇者と女魔法使いの話  作者: 渡辺 佐倉


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聖女様2

勇者視点


「魔法使いを遠ざけてどうするつもりだ?」


俺がそう言うと、聖女はクスクスと面白そうに笑った。


「神に誓って、彼女に危害を加えることはありません」


ただ、これからする話に彼女はいらないと思いまして。

聖女は言った。


「なんの話を……」


言葉は遮られた。


「英雄になれなかった私は、今その英雄に貸しを作ることが出来ました」


その笑顔に敵意は感じられなかった。

今まで何度も殺されてきた俺の見る目が信頼できるのかという問題はあるが。


「勇者による感謝の印が欲しいのです」


今回のお礼についての話なのだろう。

それであれば魔法使いはこの場にいない方がいいだろう。

きっと彼女は気に病んでしまう。


「それであれば――」


俺は手を聖女に向かって掲げる。

そして、祝福の一つである天啓を発動した。


あたりが光に包まれる。


遠くい居た聖職者や信者たちがざわざわとしている「奇跡だ……」という声も聞こえる。


「魔族に対しては目くらましにしかならないが、僧侶に使ったときにえらく感謝されたから聖職者にはいいものだと思う」


僧侶曰く神の声が聞こえるらしい。

それから、と言いかけたところで「なんですかこれ!?!?」と聖女は言った。


「私が言ったのはもっとささやかな!、お礼の書状とかそういうものであって――」


聖女は瞬きを何度も繰り返している。

それから「神々に感謝を……」と祈りをささげた。

今後のことを考えたときに今まで与えられた祝福の全てを三人で確認してよかった。


それに、もう一つだからこそ気が付いたことがある。


魔王を倒した後これらの祝福は他人に譲渡できるようになっていることも。

ひきつぎの際渡してしまった祝福がどうなるかは考えないことにした。


魔法使いにもうやり直しのための魔法を使わせるつもりは無い。

あんな呪いを二度とかけさせたくない。


「今の奇跡のおかげで――」


話始めた聖女の言葉を遮る。


「もう一つ、渡したいものがある」

「何故……そこまで」

「僧侶曰くこの旅はとても長い物になるらしい。

だから、また再びあなたが力を彼女にふるえるようになった時には力を貸して欲しい」


だから、そのための約束としてこれを渡したい。

神からもらった祝福は、どうにも俺と相性の悪いものが沢山ある。

その中で一つ、「生命の息吹」を彼女に渡すことにした。


生まれて間もない子供に使うことによりしばらく子供は聖なる力に守られるというものだ。

使い道が無い。

商売をすれば儲かるのだろうが、勇者を殺したかった人々はきっと俺が別の形であまりにも大きな名声を得ることは望まないだろうと話し合いの中ではなった。


僧侶と戦士にもいくつか祝福を分けた。

僧侶があまりにもたくさんのものを持つと私たちも危ないからと言って本当にいくつかだけだ。


それ以外のものは敵にならないものであれば分け与えればいいと僧侶は言った。

それが本当に正しい事なのか俺には分からない。


だけどあの、嘘を取り戻すというのを選んだこの目の前の女性は信頼できるのかもしれないと思った。


「あなたは何故俺が怖くは無いのですか?」

「だって、あなた魔族以外に対しては弱いでしょ?

少しは対人戦の能力を上げた方がいいですよ」


一対一なら私でも何とかなってしまいそうですよ。

回復術を過度に使って人体に影響を与えられることは知っている。

彼女が本気で言っていそうなことも分かった。


これからは少し体をそちら向きに鍛えようと思った。

そして、俺のことを畏怖して嫌悪しない人間がいるという事が嬉しかった。


「神より預かりし祝福をありがとうございます。

この御恩はいつか必ず」


はじめて聖女は真剣な顔をしてそれから俺をしっかりと見てそう言った。


「勇者様はこれからどちらに」

「このまま南へ。有名な美の街があるだろう」


そこではどんな老いも傷跡も綺麗になるという街がある。

その街で彼女の体の一部だけでも癒せればと思っている。


「それであれば、私の名前でいくつか紹介状をお出しいたします」


その街もその近くのいくつかの場所への紹介状を聖女は書いてくれた。

魔法使いを完全に元に戻すのは無理でも薄皮を一枚一枚はぐように少しだけ元に戻せる可能性のある人々がいる場所だそうだ。


「最期まで彼女の全ては取り戻せないかもしれませんよ」


聖女は最後にそう言った。


「僧侶の見解もおなじだったから多分そうなのだろう」


それでもいいと思った。

命をすり減らしながら、何度もやり直しをするよりも、何度も殺されながら宮廷で生き場所を探すよりもずっと意味のある生き方だと思った。


「それではいずれ」


それまでに私ももっと修行をしてもっと素敵なものを取り戻せるように。

そう聖女は言った。

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