聖女様1
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次についた場所は大きな宗教都市だった。
街の中心にあるのは大きな聖堂だ。
湖のところにあった小さな教会に比べとても大きいし人も沢山いる。
勇者は入ってすぐにいたところで人々を案内している聖職者の女性に荷物から取り出した封書を見せていた。
そこに書かれているのは僧侶の字だった。
僧侶の用事が何かあるのだろうかと思った。
その女性は慌てた様子で奥に駆け込んでいった。
それから少し地位の高そうな男の聖職者を伴って戻ってきた。
「こちらにどうぞ。聖女様がお待ちです」
男の人はそう言った。
奥の応接室にでも通されるのかと思ったけれど違った。
私たちが案内されたのは大聖堂の美しいクリスタルが輝く祭壇の前だった。
聖女様というのはどの人のことだかすぐにわかった。
銀色の長い髪が輝くその人は衣装も白と金色の刺繍で統一されていて美しい。
勇者はその人に封書を渡した。
聖女はちらりとそれを見て。
「お話は伺っております。お待ちしておりました」
と言った。
「この度はわざわざ難しいお話をお受けいただきありがとうございます」
勇者はそう言って頭を下げる。
「残念ながら私もすべてを元通りにする力は持ち合わせておりません。
何か一つ取り戻すだけで精いっぱいでしょう」
聖女はニコリと笑顔を浮かべた。
「ただ、あの王都で権力闘争を繰り広げている方に聖力で負けたと思われたくはありませんので」
そう言ってから聖女様は私に向けて金色の錫杖を掲げた。
「ひざまずいてください」
言われた通りひざまずくと錫杖の周りが淡く光る。
何か変化があったのか分からない。
勇者は私に近寄ると私の手などを確認している。
聖女は笑みを深める。
「彼女に『嘘』を取り戻しました」
聖女は確かにそう言った。
「何故そんな……」
勇者は言った。
「嘘は女にとって花の様なものですから」
隠し事もできないだなんて、普通に話もできませんよ。
そう言って聖女は笑った。
勇者は何か考えた後、「そうか。体だけではない、という事か……」とぽつりと言った。
「まあ、体から回復をという方向性は間違っていないと思いますよ」
聖女はそう言った。
嘘がつけないと言われて、お祭りで味について分からないとしか答えられなかった理由がようやくわかった。
「ただ、道具の類は後で判断するとして、当座のものは用意した方がいいのでは?」
聖女は私をみて勇者に言った。
「道具とは?」
「とても魔法使いの装備とは思えませんよ。普通魔法使いというのは魔導書や杖を持って戦うものです」
そういえば私はそういうものを持っていない。
昔は持っていた気もする。
けれど思い出せない。
勇者は、ぐぅとうなった後「そうか。その通りだな」と言った。
「とはいえ共にいる場合違和感を感じられないようになっているのでしょうから」
そう聖女は慰めるように勇者に言った。
美しい聖女様と勇者はお似合いなのではないか。唐突にそう思った。
聖女はこちらをみて「私は生涯乙女でいる義務がございますから」と言った。
まるで私の考えが分かっているかのようだった。
「魔法使い様の魔道具探しには私の従者たちをつけましょう」
この街の魔道具は質がいいと有名なのですよ。と聖女は言った。
お金は報奨金から出せばいいと思った。
けれど勇者は、道中に討伐した魔族の角を売った金銭で買えばいいと私に言った。
聖女はこの聖堂で角を買い取るのでゆっくりお買い物をと言った。
そしてここは神の場であるから、神の祝福を受けている勇者は安全なのだと。
聖女は勇者と話があるらしい。
私は聖女の従者たちと魔法を使うための道具を買いに行くことになった。




