命の泉2
魔法は僧侶が使う様な神の奇跡とは違う。
なので天罰の様にどうしようもないものではない。
だから、理論的に魔法の対価として失ってしまったものは治癒できる可能性がある。
とても面倒だったり、複雑な条件が絡んでいる場合も多いけれど。
解呪を専門とする魔法使いも世界にはいる位なので技術としてはある程度は確立されている。
泉で数日体を清める毎日をおくったところで、シスターに「これ以上は……」と止められた。
聖なる泉の力と私の対価が打ち消し合いを始めたところだった。
勇者もその話は理解していたのだろう。
「本日までありがとうございました。明日発ちます」
と言った。
それから「何かお困りのことはありますか?」と聞いた。
それは魔族討伐の旅でも勇者が口癖のように言っていたことで、それを聞けたのが少し嬉しかった。
シスターは少し悩んだ後、教会の床の補修と、それから子どもたちの遊び相手を頼んでいた。
子どもは他の人々から怖がられて教会関係者以外と遊んだことがほとんどないそうだ。
それから、何かと物入りで……とシスターは申し訳なさそうに言った。
私は魔王討伐でもらった報奨金の一部をシスターに渡した。
勇者は楽しそうに、子どもたちと遊んでいた。
勇者はそういう人だ。
私は座ってみていて欲しいと言われてそれをぼんやりと眺めていた。
そうだ。勇者はそういう人だった。
なんで忘れていたのだろう。
理由はわかっているけれど大切なものを失っていたことにショックがあるのは変わらない。
顔が布で隠されていてよかった。
ポロリと一粒涙がこぼれた。
勇者の言葉通り翌日朝シスターと子供たちに見送られて私たちは再び旅に出た。
「目的地は決まっているのですか?」
私が聞く。相変わらず私の声はかすれていた。
「三か所目までは。
途中で大きな祭りがあるらしいから寄っておいしい物でも食べよう」
勇者はそう言った。
勇者は昨日より元気そうに見えた。
だから何故なのか聞いた。
「俺のことを怖がらない人も君たち以外にまだいるのかと思ったら嬉しかったから」
そう勇者は答えた。
何を言っているのか少し分からなかった。
「今の君には分からないかもね。だけど嬉しかったんだ」
勇者はそう言った。
「勇者が嬉しいのなら、私も嬉しいです」
私がそう言うと、勇者はふにゃりと笑った。