命の泉
夜明けとともに城を発った。
戦士と僧侶が見送ってくれた。
勇者と僧侶が守衛に金を握らせて城勤めのもの用の通用口を開けてもらっていた。
そんなこともできる人なのだと知らなかったような気がする。
「こちらのことは任せて」
僧侶が言った。
「また連絡をする」
勇者が答えた。
「神の御心のままに」
僧侶が言った。少し会話がかみ合ってない気がするけれど最近の私は上手く人の話を聞き取れていない気もするので何も言わなかった。
* * *
行先は最初から決めてあったようで街道をどんどん進んでいっていた。
途中国を超えてそれから高い山々が連なる地方に出た。
ここは聖域と呼ばれ魔族も立ち入れなかったため、魔王討伐の旅で立ち寄ったことのない場所だった。
そこには小さな教会と、キラキラと輝く泉があった。
教会は孤児院も兼ねているようで年のいったシスターが出迎えてくれた。
私たちの来訪を知っている様だった。
子供たちを見る。
そして息を飲む。
私程ではない物の、何らかの魔法により対価を支払ってしまった跡がある。
けれど、魔法使いとしての素養が高いものはそれほどいない。
であれば、だれか他の魔法使いによって対価として差し出された子どもたちなのだろう。
「泉で体をお清めください」
シスターはそう言った。
その泉には聖なる力があることは分かった。
ここの子供たちはここで暮らすことで少しずつ体を癒しているのだろう。
「手伝おう」
勇者は言った。
その時の私は恥ずかしい、とかそういう気持ちがわかず頷いていた。
靴を脱いで素足を晒す。
勇者が私の足をじいっと見ていた。
老木の様とでも言いたいのだろうか。それとも入れ墨の様に入った模様が気になるのだろうか?
私には判断できない。
泉に足を浸す。
つめたいのに、不快な気持ちはない。
勇者は持ってきた柔らかな布で丁寧に私の足をぬぐっていた。
そうしていると、ぬるり、という感覚が近いのだろうか。
入れ墨の様に入った模様が少しだけ薄くなった気がした。
勇者もそれに気が付いた様で、はっと息を吐く。
それから「他の場所も試してみよう」と言った。