夜明け
* * *
「それであなたの幸せはどうなるのですか?」
婚約破棄をして何もかも手放してしまってそれでこの人の幸せはどうなるのだろうと思った。
「おとぎ話では龍殺しの英雄がお姫様と幸せに暮らしました。めでたしめでたし。で終わるけどそうじゃないことは知っているから」
知っている。そう彼は言った。
上手くいかないことを知っているという様な言い方だった。
「でも、それについてはまた追々。君がもっとしゃべれるようになってからにによう」
ここは危ないから明日には発つ。
勇者はそう言った。
「一緒についてきてくれるかい?」
勇者は言った。
私に断る理由は無かった。
だけど、彼は色々なものがおしくないのだろうか。
フードをかぶっているので表情は分からないはずだ。
だからだろうか。勇者は私が不安がっていると勘違いしたらしく。
「さっきも少しはなしたけれど、王都のことは僧侶が教会から何とかしてくれるし、魔族の残党の件は戦士が何とかするだから俺とここを離れよう」
そこには確かな意思があった。
「あなたがそれを望むなら」
彼に別の幸せがあるのであれば協力したい。
彼は私も魔王を倒した一人だと言ったが、間違ってはいないのかもしれないが、あくまでも私は勇者のパーティの一員として倒したのだ。
勇者とそれ以外は違う。
これは私が彼のことを特別だと思っていることとは関係のない事実だ。
特別、特別って何だっただろう。
思い出せない。
恐らく記憶を対価に出してしまった影響だろう。
思い出せないことが多い。
けれど、魔王を倒したのは確かに勇者だ。
彼は報われねばならない。
それだけは覚えていたのでそう言うと彼は寂しそうに笑っただけだった。
それから少しだけ話をして勇者の荷物をまとめるのを手伝った。
勇者の荷物はブラシや柔らかな布等不思議なものが多かった。
勇者は「これからの予定で使うんだよ」と言っただけだった。
それほど時間が経った感覚は無かったけれど外が白み始めている。
夜明けが近づいている。