潮汐の歌
勇者視点
別の日だった。
野宿するしかないような場所で火を起こしてその周りで皆で眠る。
魔法使いをみて、呪いは眠ることは奪っていないのだと知って少しだけ安心した。
火の番と周囲の警戒は俺がすることになった。
明け方からは僧侶が交代することになっている。
皆眠って火の燃えるぱちぱちという音だけが聞こえる。
毎日、毎日魔族と戦っているというのにこういう気持ちになるのはおかしいのかもしれないけれどとても穏やかな気持ちだった。
魔物の気配はしない。
寝る前に、僧侶が結界を張ってくれたからかもしれない。
さざめきが聞こえたのだ最初は思った。
そんな音だった。
魔法使いの歌声なのだと気が付くのに少し時間がかかった。
それは酷い例えかもしれないけれど故郷で聞いた波の音に似ている気がした。
懐かしい、懐かしい音だった。
多分、俺が彼女の声を聞いていると気が付かれてしまうと声は止まってしまうだろう。
静かに、気が付いていないふりをして耳を傾ける。
彼女の声はもうかなり呪いに奪われているのだろう。
とてもとても小さな声だった。けれど波に似たその声をしばらくただ聞いていた。
もう少し彼女の声が戻ったらどんな音色なのだろうと思った。
しばらくすると再び彼女は眠りに落ちたようで歌は聞こえなくなってしまった。
彼女の呪いがもう少し良くなってそれで普通に話せるようになったら。
今日歌っていた歌が何の歌か聞きたいと思った。
未来が少し怖いと思った。
伝言に手記を残した前の自分も皆同じ気持ちだったのだろうか。
空を見上げる。
魔王を許せないという気持ちは自分の中心にある。
けれど、なんで英雄になりたいと思ったのか。
それはまるで遠い昔の思い出のようで、確かに思えなくなってしまっていた。
サブタイトルの潮汐の歌は中国語で響きがきれいだったので
誤字や造語ではないです。