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勇者と、勇者と、勇者と…

その次の自分は二度の死を本物と判断して、細かい手記を書くようにしたそうだ。

以後残っている記録は全て魔王討伐の旅に出てからの日々の記録になっている。


そして魔王討伐に対するリスクは格段に低くなっていった様だ。

しかも、ひきつぎという祝福のおかげでもらった祝福は次の自分へ引き継げている。


そのことから分かる点は神々はこの繰り返される惨劇に気が付いているという事だ。

それであの神様の言っていた問答の意味がわかった。


俺はそのことについて伝言を使い記録を残す。

そして、手記を書き始めた当時祝福を与えていた神様は別にいたらしいこと。


明らかに俺の見た神様と特徴の違う神の記述が多くみられる。


――祝う気持ちが持てなくなったら祝福はできない


恐らくそういう事だろう。

だから繰り返しは神が起こしているものではない。


では魔族か、人間か。

それに俺を殺しているのは誰か。


最初の何回かの手記を見ている限り俺を殺しているのは、おれをやっかんだ貴族だろうと思った。

けれど、貴族を疑い、貴族と融和するために必死になって貴族の振る舞いやマナーを学んでも俺は魔王を倒して割とすぐに殺される。


魔族の関与を疑ったが、その線も無い。

魔王を倒したことを念入りに確認したが、それは確かだった。


魔王以外にそんな強い効果のある”何か”をできるとは思えない。

それに彼らが起死回生を願い繰り返しをしているとして、あまりにも毎回同じようにやられているのはおかしい。


しかも貴族に対して壁を作った俺は、その後王族に直接殺されている。

毎回あまりにも犯人が違いすぎて意味がわからない。


手記の中の自分も混乱しているようで笑えた。

そうして、それでもそれを何度も繰り返しているうちに俺はあることに気が付いたらしい。


最初は手記にかかれていた『魔法使いのつややかな白髪』という言葉だったらしい。

野宿をしている魔法使いは魔法使い用のフード付きのローブを着ていて顔も髪の毛もよくは見えない。


けれど時折見える髪の毛は、つややかとは程遠い、放置した雑草の様なぼさぼさとしてカビの生えた様な色のものだった。

おかしいと思った。


他のものは変わらない。

僧侶は伝言で書かれた人物そのものであるし、戦士も、姫君も魔王も、皆基本は同じだ。

違うのは誰が自分を殺すかと、毎回魔法使いが様変わりしていく点だ。


俺は、恐ろしくなって魔法使いを避けた。手記にはそう書かれていた。

魔法使いを避けつつも監視している様子が手記にはずっとつづられている。


魔法使いも途中で挑んでくる強い魔族の特徴をよく知っている様だった。

魔王の特徴も知っている様だった。


宮殿に凱旋を果たして、祝賀会で一人の子供が飛び出してくるのが分かった。

とっさに振り払おうとしてすんででとどまる。

俺の力で振り払ったら子供は死にかねない。


子供の手元に刃物があるのが分かった。

貴族の子供だろうか。


「なんで、なんで……僕の母さんは救ってくれなかったのにっ!!」


そう言いながら子供は俺の腹を貫く。

そんな小さなナイフで人が殺せるわけが無いと言おうとしたところで貫かれたところがじわりとうずく。


僧侶と魔法使いが俺の元に駆け寄ってくる。

慌てて僧侶が回復の祈りを神にささげるが上手く傷が治らない。


呪いの様なものが施してあったらしい。

周りを見渡す。

そこにいた人間皆がどこか、ほっとしたような顔をしている様に見えるが、妄想の類だろうか。


足元がぐらつきばたんと倒れる。

戦士が傷口をぎゅっと強く抑えてくれている。

僧侶は声がかれるようになりながら回復の祈りをささげている。

魔法使いも薬草を傷口に塗りながら、魔除けの魔法と呪いを解く呪文を唱え続けている。


魔法使いと目が合う。

何色とも形容しがたいその瞳から、ぼたりぼたりと涙が零れ落ちる。


「お願い、今度こそ、今度こそ死なないで……」


魔法使いは確かにそう言った。


伝言の祝福は声で記録を残すこともできる。


『俺へ、

仲間だけは疑うな』


そう最後に伝言に書き込み瞳を閉じた。

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