伝言
無茶苦茶な量の祝福の中にそれはあった。
祝福の名は「伝言」。
誰かからの伝言を記録したり、誰かへの伝言を記録し、神力で送ってくれたりするものらしい。
はじめて自分にそんな能力が備わっていると知ったのに、何か伝言が記録されている。
誰かが勇者に伝言を頼んだものだろうか。
記録されたものを確認しようとすると目の前に本が現れた。
これは魔法の様な物なのだろう。
ここに書いたものが誰かに伝えられて、誰かから一定の方法で俺に伝えられたことがここに書き込まれる。
何が書かれているか、少しわくわくしながら開くと、そこに書かれていたものは、思いがけないものだった。
俺から俺宛ての大量のメッセージ。
本はまるで俺の日記帳の様に大量の文字や印画で埋まっていた。
俺の字だ。確かに俺の字で俺に向かって書いている。
別の祝福がこれは“本物”だと告げている。
なんだこれは。なんだこれは。なんだこれは。
本を持つ手が震える。
その気持ちを汲むように、最初にかかれていた伝言はどうか冷静になって欲しい。という旨が書かれていた。
誰かからの伝言なんて一言もない。
俺が誰かに伝言を伝えたことはない。
この本にあるのは全て俺から俺への伝言で、それは今何が起きているのか。
どうすればいいのか。
思い悩む自分の手記がそこにはいくつもいくつも書かれていた。
そして最後には必ず俺は誰かに殺されてしまっている様だった。
魔王を倒す道半ばで倒れて奇跡が起きて復活している。という訳でもなさそうだった。
冷静になりたくて伝言の祝福を一度閉じてしまう。
それから仲間と魔族を何匹か倒して、宿屋で休むことになった。
一人になってもう一度あの俺への伝言で埋め尽くされた本を出す。
まず、最初この伝言の祝福をもらった俺は別に手記をしたためるためにこの伝言の祝福を使っていた訳ではなかったらしい。
残されていたのはいまわの際の言葉だった。
俺は健康状態を確認してもらうためだろう医師に体を見てもらっていたらしい、医師が何らかの注射を打った。
そして体調が急激に悪くなった。
これはおかしいという事で誰かに救助要請をしようとし、その途中で更に容体が悪化したらしいことが書かれている。
この伝言は誰にも伝えられることは無かった。
恐らくこの時一度俺は死んだのだろう。そう他の俺が伝言を残している。
次に書かれていたのはその伝言に気が付いた俺が書いたものらしい。
半信半疑ではあったものの、神の奇跡か何かなのだろうと思ったと書かれている。
医師にさえ気を付ければいい。ただ、この伝言を消す気にはなれなかったし他の用途に使う気にもなれなかった。
だからいくつか魔王を倒すために重要な点を記録として残す以外にこの伝言は使わなかった、この時のおれは。
また、いまわの際にその状況が書かれていた。
俺は離宮に幽閉されて病死したという事にされるらしい。実際はなにも与えられなかった所為による衰弱死だ。
離宮に閉じ込められて以降、ただひたすら状況を書き残して精神の正常を保とうとする自分自身に手が震える。
最初に見たときに恐れていたことの理由が分かった。
俺は怖かった。
俺が、何度も何度も殺されてしまっているという事実が。
そして、何度も何度も同じ人生をやらされているんじゃないかと気が付いて、それが怖かった。
誰が俺を殺したのか。
そして誰がそれを繰り返させているのか。
まるで陰謀じゃないか。
けれど、まだまだ伝言は沢山あるようだった。
その日俺は故郷の街がめちゃくちゃになって以来はじめて眠れない夜というものを過ごした。




