夏祭り 2
アカリと綾乃と別れたリリカは、桃香と一緒に人気の少ない場所へと移動していた。
「綾乃さんたち、上手くやってるかなぁ」
桃香が巾着を開けながら、リリカに尋ねてくる。
リリカと桃香があの2人を夏祭りに誘って、途中で2人だけにしよう、と作戦を立てていたのだった。もっとも、綾乃とアカリはリリカたちが誘う前から一緒に夏祭りに行く約束はしていたのだけれど。
「上手くやってると信じるしかないでしょ? わたしたちにできることは2人で良いムードでいられる場を作ってあげることだけ。あとはあの2人がどうするかでしょ」
かき氷を買ってから、人気の少ない場所に移動して、巾着袋を開けてもらえた。巾着袋の外に体を出して、桃香の太ももの上に乗っかってから、リリカは大きく息を吸った。
「この中暑すぎるわ」
リリカは小さな手を思いっきり動かして自分の体を仰いでいた。
「モモカも仰ぐの手伝ってあげるねぇ」
モモカが力一杯仰いできたもんだから、強風がやってくる。
「ちょっと、せっかく髪の毛頑張ってアカリに手伝ってもらったのに、乱れちゃうから!」
「あ、ごめんねぇ」
「もうっ、せっかく桃香のために整えてきたんだから、やめてよね」
「モモカのためにしてきてくれたのぉ?」
「そ、そうよ。初デートでしょ?」
直接言われると恥ずかしくなる。
「やったぁ。モモカも美容室で整えてきた甲斐あったなぁ」
「わたしのため?」
リリカが少し揶揄うように言ったけれど、桃香は満面の笑みで頷いた。
「そうだよ、リリカちゃんのため。リリカちゃんに、一番可愛いモモカを見せたかったからぁ」
えへへ、と笑っていた。その笑顔が可愛らしくて、思わずリリカは固まってしまっていた。
「どうしたの、リリカちゃん、顔赤くなってるよ?」
「うるさい、うるさい! あんたが巾着袋に長時間閉じ込めたから暑くて顔が赤くなってるのよ! 早くかき氷食べさせなさい!」
「そ、そんなに怒らないでよぉ。かき氷食べさせてあげるからぁ」
桃香が慌ててストロー製のスプーンで氷を掬ってリリカの前に持っていく。ストローで掬えるかき氷の量はほんの少しだけれど、それでもリリカにとっては山盛りの氷。両手で掬ってから口の中に入れた。
「冷たい!」
リリカが慌ててこめかみを押さえた。
「リリカちゃん大丈夫ぅ? 冷たいんだったら、あっためた方がいいのかなぁ?」
桃香が口を近づけてくる。
「あっためるって……。ひゃっ……!」
桃香がはぁーっとあったかい吐息を吹きつけてくる。
「ち、力技すぎない!?」
身体中が桃香の吐息に包まれた。体が熱くなってきているのは、桃香の吐息で温められたからではなく、桃香の吐息を吹き付けられた緊張感から。どんどん火照ってきていた。
「桃香のバカァ! 体熱いからかき氷食べ直しよ! スプーンに入れて運んできて!」
「え……、うん」
言われた通りストロー製のスプーンに入れて、かき氷を運んできてくれたから、顔を突っ込んだ。
「あっ、リリカちゃんそんなに勢いよく食べたら、また頭痛くなっちゃうよぉ……」
「知らないわ!」
勢いよく食べてから、顔を上げて、またこめかみを押さえた。
「冷たいわぁ!」
リリカが、桃香の太ももを叩いていた。
「桃香が運んできたせいで冷たいじゃないのよ!」
「えぇ……。リリカちゃん、それは八つ当たりだよぉ……」
桃香が困ったように笑っていた。
そんな風に、デートの雰囲気がすっかりよくなってきていたのに、突然桃香の笑い声が止まった。「あっ……」と泣きそうな声を出した後、リリカの後ろからどこかで聞いたことのあるような声が聞こえてきた。




