それぞれの恋 5
綾乃さんとの夏祭りを楽しみにしながら、帰りにリリカと桃香ちゃんと合流したのだった。いつものように桃香ちゃんの手のひらの上にリリカが乗せられて、綾乃さんの手のひらの上にアカリが乗せられて家に帰っていたのだけれど、リリカと桃香ちゃんの様子が少しいつもと違っていた。
2人とも、なんだかいつもよりも静かだった。距離があるから、詳しいことはわからないけれど、何かあったのはほとんど間違いなさそうだ。
「あの2人喧嘩でもしたんですかね? あんなに静かなリリカ久しぶりに見ます」
人間へのトラウマが蘇ってしまったのだろうか。まさかと思うけれど、桃香ちゃんに何かされてしまったのだろうか。不安が次々頭に浮かぶ。
「どうかしら、わからないけれど、桃香もいつもより元気がなさそうね……。ていうか、なんか緊張してる?」
綾乃さんも不思議そうに見ていた。
「ねえ、桃香」
綾乃さんが桃香ちゃんに声をかけていた。
「な、なんですか?」
慌てて後ろを振り向いた拍子にリリカを持っている手が傾く。
「モモカ、落ちちゃうわ!」
「えっ、ごめんねぇ!」
慌てて手を水平に保とうとしてバランスを崩しかけたけれど、なんとか均衡を保った。その代わりに、強引にバランスを取ったから、リリカと桃香ちゃんはお互いに至近距離で顔を合わせてから、パッと視線を逸らせて恥ずかしそうにしていた。
「ねえ、あなたたち何かあったの?」
綾乃さんがジッと桃香の方を見つめていた。
「ねえ、リリカ、今日ちょっといつもと違うけど、どうしたの?」
アカリも尋ねたから、2人とも顔を見合わせてから、ほとんど同時に声を出す。
「えっと……、わたしたち付き合うことになったからぁ……」
リリカも一緒に間伸びした声で答えた。
「えっ、良かったわね、おめでとう!」
アカリが言った後、綾乃さんも、良かったわね、とホッとしたような声を出した。2人ともお似合いだったから、アカリまで嬉しくなった。
「ねえ、どっちから告白したの?」
アカリが興味津々で尋ねた。
「桃香から」「リリカちゃんから」
2人とも同時に真逆のことを言っている。
「ちょっと、桃香嘘つかないでよね! あんたが先に『リリカちゃんと恋人同士になれたら楽しそう』って言ってたじゃないのよ!」
「リリカちゃんこそ嘘つかないでよ! 『じゃあ、恋人同士になっちゃうって?』って言ってくれたの、リリカちゃんのほうじゃんかぁ!」
「はぁ? わたしは提案しただけ! 乗ってきたのは桃香でしょ?」
言い争いをしている2人を見て、呆れたように綾乃さんが呟く。
「ねえ、あなたたち本当に付き合ってるの?」
「付き合ってるよぉ! リリカちゃんがモモカと付き合いたがってるんだからぁ!」
「桃香がどうしてもっていうから、仕方なく恋人になってあげてるのよ」
どうやら、さっきまで元気がなかったのはいろいろと緊張していたからのようだ。少ししたら、今みたいに普段通りに痴話喧嘩を初めてしまっていた。しかも、今回は恋人同士の本当の痴話喧嘩。付き合うことにはなったみたいだけれど、今までとあんまり関係性が変わっていなさそうで、とても微笑ましかった。
(わたしもいつか綾乃さんとそんな関係になれるのかな……?)
そっと見上げた綾乃さんの顔は、いつもと同じように凛々しくて、カッコよかったのだった。




