それぞれの恋 4
翌日、桃香ちゃんにプティタウンの外に運び出してもらってから、綾乃さんの手に渡り、運んでもらう。
「カフェでコーヒーでも買ってから、公園に行きましょうか」
綾乃さんの提案に「良いですよ」と頷いた。外は少し暑そうだったけれど、店の中は人目につきやすいからあまり好きではない。まあ、むかし綾乃さんと沙希さんと一緒にファミレスに行ったことがあるから、今更だとは思うけれど。
今日の綾乃さんは学校帰りだったから、制服姿だ。公園についたら、ソファに座り、スカート越しに、太ももの上に乗せられた。アイスコーヒーを一つ頼んでくれた綾乃さんが、アイスコーヒーをペットボトルのキャップに移してくれていた。スカート越しにほんのり汗ばんでいる太ももの体温が直にやってくるから、緊張してしまっていた。
「暑くなってきたわね」
綾乃さんはソッとペットボトルのキャップを自分の太ももにおいた。少し中身が揺れてしまっていた。
「あの、ベンチの方が安定してると思いますけど……」
「わたしの太ももの上、嫌だった?」
アカリが慌てて首を横に振った。
「落ち着くからここが良いです」
そう、と綾乃さんがほんのり微笑んだ。
優しい笑みにホッとしながら、盃みたいに大きなペットボトルキャップを持ち上げてみたけれど、中にアイスコーヒーが目一杯入ったペットボトルキャップの重みは簡単に持ち上げられるものではなかった。わっ、と慌てた声を出したのと同時に、ペットボトルキャップをひっくり返してしまった。自分の体にもかなりかかってしまったけれど、大半は綾乃さんのスカートにかかってしまった。
「ご、ごめんなさい……!!」
慌てて拭こうと思ったけれど、ハンカチは持っていない。
「良いのよ」と優しい声で言ってくれているけれど、良いわけない。慌てて、服を脱いで、それで拭こうと思った。
「え、ちょっと、何をしているの!?」
綾乃さんは服を脱ぎかけていたアカリの細腕を触って止めた。
「やめなさい! そこまでされたら困るし、そもそも外で裸になろうとしないで!」
「でも……」
「別にクリーニングに出したら落ちるから良いのよ。それに、拭くとしてもハンカチで拭くわ。むしろ、あなたの方こそいっぱいかかっちゃってるとおもうけれど、大丈夫なの?」
「わたしは大丈夫ですよ」
結構濡れてはいるけれど、元々雨が降っても傘を差したりすることもなかったから、濡れることには慣れていた。
「ごめんなさい、私がそんなバランスの悪いところに乗せてしまったがばっかりに、不快な思いをさせてしまったわ……」
また綾乃さんがアカリに申し訳なさを感じてしまっていた。
綾乃さんに反省させてばかりなのが逆に申し訳なくて、アカリが慌てて話題を変える。咄嗟に心に抱えていたことを相談してしまった。
「あの、綾乃さん、綾乃さんは沙希さんに恋してたじゃないですか……?」
「ええ、そうだけど、それがどうしたの?」
綾乃さんは不安そうに首を傾げていた。
「恋するって、一体どういうことなんですか?」
「え……?」
「わたし、今まで恋愛なんてしたことないから、恋がわからないんです……」
「なかなか難しいことを聞くわね……」
綾乃さんが苦笑いをしてから続ける。
「正直そんな難しいこと、わたしにはわからないわ」
綾乃さんがため息をついた。その風で、アカリの前髪が揺れていた。
「ただ、そういう理屈抜きでその人のことが好きなのが恋なんじゃないかしら? わたしも今も前も恋愛感情に関してはとても困っているから、あんまり力に慣れないわよ。どれだけ恋しても困り続けてるわ」
「綾乃さんでも困るんですね」
「ええ、お互いに人の感情はとっても難しいと思うわ」
「そうですか……」
今度はアカリがため息をついた。アカリのため息は丈夫な綾乃さんのスカートを揺らすこともなく、ただ風とともに消えていってしまった。
「力になれなくても申し訳ないわね……」
「いえ、そんな……」
慌ててアカリが首を横に振った。そんなアカリの方は見ずに、綾乃さんが前を見ながらぼんやりと呟く。
「8月になったら夏祭りがあるのだけれど、一緒に行くのって難しいかしら?」
「夏祭りですか?」
「そう、行ったことないんだったらどうかなって思って。あ、もちろん人がいっぱいだから袖とかに隠しながら行って、人気の少ないところから花火見たり、屋台のご飯とか食べるつもりよ」
綾乃さんと一緒に回る夏祭り、なんという素敵な響きなのだろうか。
「行きたいです!」
「良かったわ。楽しみにしておくわね」
アカリも楽しみに当日を待ったのだった。




