それぞれの恋 2
次の日、アミさんを呼んで、アカリとリリカはお別れ会をした。3人で気軽に集まれるのも、もうこれが最後かと思うと、寂しさは一気に押し寄せてくる。
「アミー、行かないでー」
リリカが座ったまま、ギュッとアミさんに抱きついていた。
「ごめんね」とアミさんはリリカの頭を撫でた。
「ねえ、アミ。もうわたしの髪切ってくれないの?」
「またこっちに来たら切ってあげるわ」
「でも、毎日のお手入れは自分でやらないと行けなくなっちゃうわ」
元々リリカはおしゃれだったけれど、この頃は以前にも増しておしゃれにこだわり出していた。ちょうど迷子になって桃香ちゃんと出会った時くらいから。
「引っ越しの日までにやり方教えてあげるわね」
「ありがとう、アミ! 前に桃香にやってもらおうと思ったけど、あの子がやったら髪の毛千切れちゃいそうで怖かったからもう頼みたくないのよ!」
桃香ちゃんは中身は子どもっぽくて親しみやすい子だけれど、モデルさんをやっている。おかげでメイクやヘアスタイルについても詳しいみたいだけれど、残念ながら器用ではないらしい。
「でも、リリカちゃんは桃香ちゃんに会ってから随分明るくなったわね」
「わたしそんなに暗かったかしら?」
リリカが不安そうに首を傾げた。
「ううん、そういう意味じゃないわ。元々明るい子だったけれど、大人びた明るさになってきてる」
「大人びた明るさ?」
「垢抜けてきてる」
「そうかしら?」
「そうよね、アカリちゃん」
アカリの方に話を振られたから、アカリも頷いた。確かにリリカは桃香ちゃんに会ってから、随分と良い方に変わった。元々可愛らしかったリリカは、モデル業をやっている桃香の影響からか、日に日にオシャレを身につけていっていた。それこそ、リリカが人間だったら、都会を歩いていたらスカウトでもされそうな、そんな雰囲気を漂わせていた。
「桃香がいっつもいろいろやってくるのよ。わたしは着せ替え人形じゃないわよ! っていっつも文句を言ってるのに……」
文句を言っている割には、前にタブレットで見せてくれた、ツーショット写真はのリリカはとても楽しそうだった。桃香ちゃんはSNSのアカウントには載せずに、こっそり2人で画像の共有しているみたいだった。SNSに載せている桃香ちゃんの自撮りの表情はいつも暗いのに(クールな雰囲気を意図的に作り出しているだけかもしれないけど)、リリカと一緒にいる時は比にならないくらい楽しそうだった。
「なんだか桃香ちゃんの話をするときはいつも以上に楽しそうね」
「楽しそうじゃないわよ! 桃香が変なことばっかりするのに楽しいわけないじゃない!」
「そうかしら? でも、もし一緒にいられなくなったら嫌なんじゃないの?」
「べ、別に嫌じゃないわよ!」
顔をフイっと背けながら、リリカが言っているけれど、強がっているのは想像がついた。
「ねえ、リリカってもしかして桃香ちゃんに恋してる?」
アカリは思わず聞いてしまった。最近のリリカの桃香ちゃんに対する様子は、明らかにただならなかった。
「こ、恋って、そんなのあり得ないから!!」
リリカが目を見開いて、頬に手を当てながら否定しているけど、ほとんど肯定しているみたいだった。その様子を見て、アミさんがクスクスと笑った。
「あら、リリカちゃんそうなの?」
「だ、だから違うって言ってるじゃないのよ! あんなガサツでデリカシーの無い子相手に恋なんてするわけないでしょ!」
リリカが頬を膨らませながら否定をしていたけれど、満更でも無さそうだった。アミさんが、そっかそっか、と楽しそうに笑っている。アミさんもほとんど確信しているみたいだった。
「ほ、ほんとに恋なんてしてないわよ!!」
そんな風にして、アミさんがプティタウンにいる間の最後の女子会はリリカの恋愛の話がほとんどになってしまった。リリカは否定しながらも、人間との恋愛についていろいろ聞いていて、すでに愛菜さんと付き合っているアミさんからいろいろと聞いていた。
「じゃあ、困ったことがあったらまたいつでも言ってくれて良いからね。愛菜のお家でまた女子会しても良いしね」
アミさんが笑顔で手を振った。
「すいません、アミさんいろいろとお世話になりました」
「アミと愛菜の同棲のこと、また教えてよね!」
アカリとリリカも手を振り返したのだった。
そうして、アミさんもプティタウンを去っていく。アミさんもリリカもそれぞれ自分の好きな人との会う頻度を増やしていっていた。アカリは、そんな2人が羨ましかった。




