綾乃の失恋 2
数日経って、プティタウンの前に本当に桃香ちゃんがやってきた。リリカは心なしか嬉しそうにプティタウンの外で出迎える。
「リリカちゃん! 遊びに来たよぉ!! 早く入れてよぉ」
「いや、遊びに来たって、当然あなたは中に入れないわよ?」
桃香の大きさでは、頑張っても腕くらいしかプティタウンに入れないだろう。もちろん、腕だけ入れて街を引っ掻きまわされでもしたら、入り口付近の家屋や、小さな街路樹が全部倒されちゃうから、腕だけ入れるのも禁止だけど。
「冗談だよぉ。でも、ここから中を見るくらいなら良いでしょぉ?」
リリカがプティタウンの中を覗いていた。
透明な壁の外からとはいえ、大きな桃香ちゃんの瞳が覗いていたら中から見た人が驚くのではないだろうかとヒヤヒヤしてしまう。それで、問題を起こしてせっかく取得した入館証が取り消しにでもなったら困るから、アカリはひっそりと頭を抱えていた。
「もうっ、桃香、ダメよ。あんたおっきいんだから、あんまりジロジロみないでよ!」
「えぇー、だってプリンタウン可愛いんだもん! 桃香も住みたいなぁ」
「ダメに決まってるでしょ! あんたの大きさでわたしたちの町の中に来たら怪獣みたいになっちゃうからやめてよ! 桃香怪獣は入るの禁止!」
「じゃあ、リリカちゃんくらいの大きさになって一緒に住みたぁい」
「あんたは家散らかしそうだから、一緒に住んだら大変そうだから却下」
「リリカちゃんのケチぃ」
桃香ちゃんが頬を膨らませていた。
「ていうか、そんなことはどうでも良いのよ! みんなで沙希のスタジオに行くんでしょ?」
アカリや綾乃さんが今まで写真の撮影をしてもらっていた小さなスタジオも、引っ越しに伴って使えなくなるから、最後にみんなでお邪魔することにしたのだった。
「綾乃さんとはどこかで合流する形ですか?」
アカリが桃香ちゃんに確認する。
「綾乃さんはお外で待ってるよぉ」
そっか、とアカリは納得する。綾乃にも入館証の取得を勧めたけれど、断られてしまった。「アカリに意地悪をした私に取得する資格はないから」と拒まれてしまったけれど、もうそんなこと気にする必要なんてないのに。むしろ、アカリとしては取得したら助かるのに、なんてことを思ったりもした。
「じゃあ、乗ってねぇ」
桃香ちゃんが両手でお椀の形を作り、2人に乗るように促す。アカリがリリカを先に乗せてから、桃香ちゃんの手に乗った。桃香ちゃんは2人を乗せてから数歩歩いて、あっ、と立ち止まる。
「両手塞がってるからドア開けれないよぉ」
「もうっ、桃香ったら……。わたしたちのこと肩にでも乗せないよ。運び方なんていくらでもあるでしょ」
「そうだねぇ!」
桃香ちゃんはまず2人を片手側に移ってもらうように指示をした。この時点でもう片方の手は空いているからそのまま開けたらいいのに、桃香ちゃんはなぜかまずアカリを肩に乗せてから、リリカのことを頭に乗せた。
「ちょっと、なんで頭に乗せるのよ!」
「リリカちゃん、高いところ好きそうだからぁ。今は桃香よりも目線高いねぇ」
「確かにあんたの視線が羨ましいって思ったことは何度もあるけど、別に今じゃなくて良いわよ……」
呆れたようにリリカは言ったけれど、口調は少し嬉しそうだった。
「まあ、見晴らしが良いのは悪くないからいいわよ。いきましょう」
うん、と桃香が頷いてからバッグからキャップを取り出して被った。
突然、リリカは桃香の頭の上で、キャップに閉じ込められてしまったのだった。
「うわっ、ちょっと桃香のバカァ! 全然見晴らし良くないじゃないのよぉ」
キャップの中からリリカの声が聞こえてきた。




